注目の将棋界がわかる本!将棋初心者にもおすすめの小説・エッセイ
藤井聡太さんや、ひふみんこと加藤一二三さんの活躍などが話題となり、近年にわかに将棋界への注目が増しています。
これまで、お堅い人というイメージだった棋士ですが、その個性的なキャラクターでバラエティーに進出し、将棋を知らないファンを獲得している棋士も現れました。
また、動画共有サービスによるタイトル中継をはじめ、将棋を指さない、もしくは指せなくとも、将棋を見て楽しむファン、いわゆる「観る将」と呼ばれるファン層も出現しています。
そんな注目の将棋界ですが、読書の世界でも存在感を増しています。
羽生善治さん、森内俊之さんといった将棋界をリードするトップ棋士による、一般向けの新書は売り上げを伸ばし、漫画の世界では、羽海野チカさんの『3月のライオン』がアニメ化や映画化するなどブレイクしました。
これから「読む将棋ファン」、「読む将」という層が現れてくるのかはわかりませんが、将棋界を扱った作品に独特な魅力があることは間違いありません。
本コラムは、自分とは違う世界を覗いてみたい、将棋界について興味があるというあなたに向けた、将棋本入門です。(敬称・段位は省略させていただきます。)
「奨励会」の厳しさを描いた名著
将棋のプロ棋士になる、ということは生易しいことではありません。将棋のプロ棋士になるための最大の関門が「奨励会」です。
プロ棋士の卵たちは、小学生、中学生になると奨励会に入会し、生き残りをかけて互いに凌ぎを削りあいます。
勝ち負けがすべての勝負の世界であり、制限年齢までに規定の成績を上げなければ、即退会となる厳しい世界です。
まさに人生をかけた大勝負が繰り広げられる奨励会は、ドラマの舞台でもあります。
『泣き虫しょったんの奇跡』
『泣き虫しょったんの奇跡』
瀬川晶司(著)、講談社
プロ棋士瀬川晶司さんは、奨励会で三段まで勝ち上がり、プロとして認められる四段まであともう一歩のところで、涙を見た1人でした。
そんな瀬川さんの半生を描いたのが『泣き虫しょったんの奇跡』です。
制限年齢までに満足な成績を上げられず26歳で退会。一度は将棋と縁を切るものの、再び将棋の魅力にとりつかれます。
そして歴史的なプロ編入試験を経て、35歳にして異例のプロ入りするのです。
物語は、幼い頃からのライバルや先生、奨励会の仲間たち、そして家族との交流を中心に繰り広げられます。正直に語られる奨励会の厳しい現実と心境のうつろいに、思わず夢中になるはずです。
『将棋の子』
『将棋の子』
大崎善生(著)、講談社
奨励会を描いた作品といえば、大崎善生さんによる将棋ノンフィクション『将棋の子』もおすすめです。
インパクトあるプロローグから奨励会の異様な雰囲気が感じられます。奨励会を退会した若者たちの成長と挫折、渦巻く感情が一気に流れ込んでくるので、かなり勢いのある作品ですよ。
奨励会の厳しさを描きつつも、そこには人間同士のふれあいや、感動ドラマがあります。長年、編集者として将棋界を見てきた著者の眼差しのやさしさを感じる一冊となっています。
プロ棋士ってどんな人種? 棋界を描いた名エッセイ
プロ棋士の世界を覗くには、プロ棋士が書いたエッセイに勝るものはありません。
『先崎学の浮いたり沈んだり』
『先崎学の浮いたり沈んだり』
先崎学(著)、文藝春秋
棋界随一の名エッセイストとして知られるのが、プロ棋士の先崎学さんです。
著者は、小学生のころから「週刊新潮」や「週刊文春」を愛読していたそうで、その影響からでしょうか、どのエッセイを読んでも自在な文体による「先崎節」が炸裂しています。
その文才を買われ、出版されたエッセイ集は数知れず、同業者である将棋棋士の風変わりなところを、面白く描き出しています。
『編集者T君の謎』
『編集者T君の謎』
大崎善生(著)、講談社
将棋界を編集者という視点で眺めたエッセイであれば、すこし古いですが『編集者T君の謎』がおすすめです。
羽生善治さん、谷川浩司さんといった棋界の大天才にまつわるエピソードを収録。
升田幸三さん、大山康晴さんら昭和の大名人の伝説、女流棋士の日常の1コマ、同業編集者の愛らしいキャラクターなど、バラエティー豊かな将棋界の人々を描いた、短く楽しいエッセイが満載です。
『聖の青春』
『聖の青春』
大崎善生(著)、角川書店
大崎善生さんの作品といえば! 『聖の青春』も忘れるわけにはいきません。
将棋棋士の村山聖さんの生き様を描いた本作。
難病ネフローゼの闘病生活、師匠森信雄さんとの師弟愛、羽生善治さんとのライバル関係……涙なしには読めない、将棋本屈指の感動作です。
2001年にはドラマ化、2016年には映画も公開されました。
プロ棋士が書いた名著
数多くのプロ棋士が、一般向けに思考のコツなどの内容の新書を出版しています。
『決断力』
『決断力』
羽生善治(著)、角川書店
たとえば、将棋界でその名を知らぬものはいない生ける伝説のプロ棋士、羽生善治さんの『決断力』。
勝負師はいかにして直観力を得ているのか? 人生や勝負のエッセンスを教えてくれます。ビジネスマンにもぜひ読んでほしい一冊です。
そのほか私個人のお気に入りの著書は、米長邦雄さんが残したエッセイ集『将棋の天才たち』。
また、コンピューター将棋ソフト「ボンクラーズ」との一局を述懐した『われ敗れたり』もおすすめです。
将棋をテーマにした漫画作品
『将棋の渡辺くん』
伊奈めぐみ(著)、講談社
永世竜王の資格を持った、羽生世代以降最強の棋士、渡辺明さんの日常を漫画にした作品が『将棋の渡辺くん』です。
作者は将棋作家で渡辺明さんの奥様である、伊奈めぐみさん。天才ならではの普通ではない行動・発言が満載で、どこか家族劇の趣もある、のほほんとした作品です。
ブログ「妻の小言」も要チェックです。漫画ではありませんが、「渡辺くん」本人のブログ「渡辺明のブログ」をまとめた『明日対局。』もあります。
将棋に馴染みのない人の間でも人気を博した漫画として、柴田ヨクサルさんの『ハチワンダイバー』が有名です。溝端淳平さん主演でテレビドラマ化されたことでも話題となりました。
1人の棋士の成長を描いた、羽海野チカさんの『3月のライオン』も人気です。
将棋駒の写真集『カラー版 将棋駒の世界』
『カラー版 将棋駒の世界』
増山雅人(著)、中央公論新社
最後にオマケとして、私が愛読する一冊を紹介します。
本書は、奥野一香さんら有名駒師が作った何百万とする将棋駒から、珍しい木材で作った将棋駒、有名棋士が所蔵する将棋駒など、さまざまな将棋駒がたくさんのカラー写真とともに紹介されています。
つきつめればマニアックな世界ですが、ただ眺めているだけでも綺麗で、心が落ち着く写真集です。
将棋の世界を覗いてみよう
将棋界には、いい意味で変わった人、変わった文化が多く、一般の人から見るとたいへん興味深い世界です。
将棋本には、定跡や詰め将棋といった解説書だけではなく、将棋を知らなくても読めるエッセイや、ビジネスにも応用の効く書物が綺羅星のごとく書かれてきました。
まずは一冊選んでみて、面白い棋士の世界を覗いてみませんか?