平成30年間で印象に残っている本Best5
更新日:2019/3/29
「平成」という時代も、残すところ2か月を切りました。
読者のみなさまにとって、「平成」はどんな時代だったでしょうか。
今回、本好きの端くれとして、個人的に「平成30年間で印象に残っている本」を振り返ってみました。(順番はランキングではありません。順不同です)
みなさまの「平成30年間で印象に残っている本」は何ですか?
白石一文『私という運命について』
『私という運命について』
白石一文(著)、角川書店
大手メーカーの営業部に総合職として勤務する冬木亜紀は、元恋人・佐藤康の結婚式の招待状に出欠の返事を出しかねていた。康との別離後、彼の母親から手紙をもらったことを思い出した亜紀は、2年の年月を経て、その手紙を読むことになり……。―女性にとって、恋愛、結婚、出産、家族、そして死とは?一人の女性の29歳から40歳までの“揺れる10年”を描き、運命の不可思議を鮮やかに映し出す、感動と圧巻の大傑作長編小説。(表紙裏)
Best5に入る理由
■自分自身の人生を重ね合わせながら読むことができる面白さ
本書で描かれるのは、仕事、恋愛、結婚、出産、家族、死といった出来事。本書を読んだ時、まさに描かれている年齢(29歳~40歳)でしたので、まるで自分が主人公になったかのように、自分自身の人生を重ね合わせながら読んでいました。
「人生は自分自身の意志で切り開く」「運命という存在に身を任せ、あるがままを受け入れていく」相反する思考のはざまで、揺れ動く亜紀。幸福をつかみ取ろうと前に進み続ける彼女には、本当に勇気をもらいました。
■私の心の真ん中にある言葉たち
私は、白石一文さんの大ファンなのですが、最たる理由の一つに「名言が多い」ことが挙げられます。
「選べなかった未来、選ばなかった未来はどこにもないのです。未来など何一つ決まってはいません。しかし、だからこそ、私たち女性にとって一つ一つの選択が運命なのです。」(p95)
この言葉は、いつも自分の心の真ん中にあります。そういう意味でも、本書は大切な1冊です。
町田康『告白』
『告白』
町田康(著)、中央公論新社
人はなぜ人を殺すのか―。河内音頭のスタンダードナンバーにうたいつがれる、実際に起きた大量殺人事件「河内十人斬り」をモチーフに、永遠のテーマに迫る著者渾身の長編小説。第四十一回谷崎潤一郎賞受賞作。(表紙裏)
Best5に入る理由
■結末が想像つかない、ジェットコースターみたいな面白さ
この本、メチャクチャ面白いです。面白くて面白くて、寝食忘れて850ページを読み切ってしまったほどです。
本書は、明治時代に起きた「河内十人斬り」と呼ばれる殺人事件をモチーフに、犯人の“熊太郎”が、どうして犯行に至ってしまったのか、の過程を描いた作品です。
熊太郎の頭の中で展開される思考が、事細かに描かれているので、本書を読んでいる間は、自分が熊太郎になったような錯覚を覚えました。愛されて育った熊太郎が、どうしてこんな事件を犯してしまったのか。
結末は衝撃的で、読み終わった後も、本書の世界からしばらく抜け出せませんでした。
■うまく説明できない心情を、丁寧に言語化してくれた
熊太郎は、思弁的で、弱く、鈍くさい子どもでした。
何をやっても下手、走ったら遅い。また、何事においても力半分でやってしまうところがありました。
本気になって根性丸出しでやったら笑われるという思い込みのブレーキが働き、本気で取り組んでいないと見せかけることで、決定的な屈辱にまみれることから逃れるのです。
奇妙な虚栄心と言ってしまえばそれまでですが、私には共感できる部分がいくつかあり、胸が痛くなりました。そんな、言葉ではうまく説明できない心情を、本書は丁寧に言語化しているのが印象に残っています。
江國香織『神様のボート』
『神様のボート』
江國香織(著)、新潮社
昔、ママは、骨ごと溶けるような恋をし、その結果あたしが生まれた。“私の宝物は三つ。ピアノ。あのひと。そしてあなたよ草子”。必ず戻るといって消えたパパを待ってママとあたしは引越しを繰り返す。“私はあのひとのいない場所にはなじむわけにいかないの”“神様のボートにのってしまったから”―恋愛の静かな狂気に囚われた母葉子と、その傍らで成長していく娘草子の遙かな旅の物語。(表紙裏)
Best5に入る理由
■「静かな狂気」がドラマティックで美しい
「小さな、しずかな物語ですが、これは狂気の物語です。そして、いままでに私の書いたもののうち、いちばん危険な小説だと思っています」 と、あとがきで江國さんは本書をこのように語っています。
この作品では、消えたパパを探すために、放浪し続ける“ママ”と“あたし”の日常が描かれています。
「かならず会える」と信じ、現実を生きていない“ママ”。運命の人と出会うと、人はこうも変わってしまう。その「静かな狂気」は、怖くもあり、羨ましくもあります。
幼かった私を、ちょっぴり大人にしてくれた1冊です。
■非日常に飛び込むことができる文章表現
幼い頃、はじめて江國さんの小説を読んだ時、なんて美しい文章を書く人だろう、と惚れ惚れしたことを今でもよく覚えています。
それ以来私は江國さんのファンなのですが、この作品も例に漏れず、美しい文章表現が羅列しています。そのため、ページをめくるたびに非日常に飛び込むことができるんですね。
放浪する母娘を、「神様のボートにのった」と表現する江國さんの感性が、私は大好きです。
東野圭吾『手紙』
『手紙』
東野圭吾(著)、文藝春秋ほか
強盗殺人の罪で服役中の兄、剛志。弟・直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が届く……。しかし、進学、恋愛、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかる苛酷な現実。人の絆とは何か。いつか罪は償えるのだろうか。犯罪加害者の家族を真正面から描き切り、感動を呼んだ不朽の名作。(表紙裏)
Best5に入る理由
■「強盗殺人犯の弟の人生」という衝撃的なテーマで、価値観を覆された
私は本書を読むまで、「加害者の家族」目線で物事を考えたことがありませんでした。
ニュースで報道される事件で報道される事件を見ても、「被害者目線」でしか物事を考えていなかったのです。
なので、この本を読んではじめて、「加害者の家族」について思いを馳せるようになったといっても過言ではありません。
自分は罪を犯していないのに、家族の犯した罪のために、さまざまな不条理に翻弄される主人公。その壮絶な人生は、思春期の私に大きな衝撃を与えました。
■「加害者の家族は、社会的に罰されるべきなのか?」という重い問いに、向き合うキッカケをくれた
また、本書は「加害者の家族は、社会的に罰されるべきなのか?」について考えるキッカケを与えてくれました。
この作品がなければ、考えることもなかったはずです。主人公の人生をまるで疑似体験したかのような、リアリティーが印象に残る1冊でした。
今も正解はわからないままです。
中島らも『今夜、すべてのバーで』
『今夜、すべてのバーで』
中島らも(著)、講談社
薄紫の香腺液の結晶を、澄んだ水に落とす。甘酸っぱく、すがすがしい香りがひろがり、それを一口ふくむと、口の中で冷たい玉がはじけるような……。アルコールにとりつかれた男・小島容が往き来する、幻覚の世界と妙に覚めた日常そして周囲の個性的な人々を描いた傑作長篇小説。吉川英治文学新人賞受賞作。(表紙裏)
Best5に入る理由
■依存症の人間が抱える心理を知ることができた
この作品は、“アルコール依存症”だった筆者の経験をベースに書かれています。
この本を読む前までは「命には代えられないのだから、病気になったらアルコールはやめるのが当然」と考えていた私。
でも、本書を読んで、必ずしもそうではないと知ったのです。
「アル中になるのは、酒を「道具」として考える人間だ。おれもまさにそうだった。この世からどこか別の所へ運ばれていくためのツール、薬理としてのアルコールを選んだ人間がアル中になる」「酒をやめるためには、飲んで得られる報酬よりも、もっと大きな何かを、「飲まない」ことによって与えられなければならない」
この文章を読んでから、「アルコールを飲むこと」が生きるための原動力になっている場合、アルコールをやめることが正しいとは言い切れない、と考えるようになりました。
■作者が綴る一言一言が、心に残り続ける
本書は、非常に哲学的な言い回しが多いです。あまりにも素晴らしいフレーズが多発するので、普段本に書き込みをしない私も、書き込み用に2冊購入したほどです。
「大人にならずに死ぬなんて、つまらんじゃないか。せめて恋人を抱いて、もうこのまま死んでもかまわないっていうような夜があって。(中略)死ぬならそれからでいいじゃないか」
この本を読んだ当時、子どもだった私。精神的にどれほど救われたか。言葉では言い表せません。
あなたの「平成30年間で印象に残っている本」は?
いかがでしょうか?「平成30年間で印象に残っている本」を振り返ってみると、自分の礎になっているものが見えてくるので面白いですよ。
今回取り上げた作品で興味を持っていただけたものがあれば、ぜひ読んでみてくださいね。
今回紹介した書籍
『私という運命について』
白石一文(著)、角川書店
『告白』
町田康(著)、中央公論新社
『神様のボート』
江國香織(著)、新潮社
『手紙』
東野圭吾(著)、文藝春秋ほか
『今夜、すべてのバーで』
中島らも(著)、講談社
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