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才気あふれる。西川美和さんのおすすめ作品


 

著書『きのうの神さま』『永い言い訳』が直木賞候補となった西川美和さん。

「自分のことを小説家だとはおもっていなくて、映画のために小説を書いているとおもっているので、これからも映画のつくり手としてやっていきたいです」
(山内宏泰(著)『文学とワイン』―第一夜 西川美和―より)

この言葉通り、西川さんの本業は映画監督。

ヒット作『永い言い訳』は、小説を書ききった後、西川さん自身で映画化(監督・脚本まですべて担当)しています。

 

小説→映画、映画→小説の順序は作品によって異なるものの、ほとんどの作品が映画とリンクしている西川さんの小説。

テーマの鋭さ、緻密な世界観の構築、練られた設定、複数の登場人物から描いた視点、頭に残る印象的なセリフなど、西川さんの小説には、映画監督による小説ならではの面白さがたくさん詰まっています。ぜひ、一度読んでみてください。

 

妻が亡くなっても泣けない、その訳
『永い言い訳』

『永い言い訳』
文藝春秋

人気作家の津村啓こと衣笠幸夫は、妻が旅先で不慮の事故に遭い、親友とともに亡くなったと知らせを受ける。悲劇の主人公を装うことしかできない幸夫は、妻の親友の夫・陽一に、子供たちの世話を申し出た。妻を亡くした男と、母を亡くした子供たち。その不思議な出会いから、「新しい家族」の物語が動きはじめる。(表紙裏)

 

直木賞候補作。

バス旅行の道中に起こった事故で、妻を亡くしたにもかかわらず、これっぽっちも泣けなかった小説家の物語。

妻の死を悲しめない、悲しみ。ありそうでなかった、斬新なテーマだと思います。

一方、妻と一緒に旅行へ行っていた親友の夫は、妻を亡くし、遺された2人の子どもと共に茫然自失となってしまいます。小説家の男は、遺された2人の子どもの世話をするようになるのですが……?

身勝手すぎる登場人物に同情はできません。ただ、文中に出てくる「愛するべき日々に愛することを怠った代償は小さくない」という言葉は衝撃的で、肝に命じようと強く思いました。

本書を読むと、家族や周りの人をさらに大切にしようと思うはずですよ。

 

地域医療がテーマの短編集
『きのうの神さま』

『きのうの神さま』
ポプラ社

村からただ一人、町の塾へ通っているりつ子は、乗っていた路線バスの運転手・一之瀬から突然名前を呼ばれ戸惑う。りつ子は一之瀬のある事実を知っていた(「1983年のほたる」)。人の闇の深さや業を独自の筆致で丹念に描き出し、直木賞候補になった傑作が待望の文庫化。(表紙裏)

 

直木賞候補作。5つの作品が収録された短編集。

それぞれの短編は、医療に携わる人々が主人公となっており、映画「ディア・ドクター」のサイドストーリー的な役割を果たしています。

テーマは、僻地の医療。映画制作時の綿密な取材をもとに生まれた本書は、リアリティに溢れており、現代における医療問題を切り取った作品に仕上がっています。

映画のタイトルにもなっている短編「ディア・ドクター」は、医者の父と、2人の兄弟を描いたもの。優秀な父に憧れている兄と、弟である僕。父は兄を遠ざけ、僕を可愛がります……。せつなくてつい涙が出る短編揃いの一冊です。

 

事故なのか、それとも殺人なのか……
『ゆれる』

『ゆれる』
ポプラ社

故郷である田舎町を嫌って都会へ出た奔放な弟・猛と、家業を継いで町に残った実直な兄・稔。対照的な生き方をしてきた二人の関係が、幼なじみだった智恵子の死をきっかけに揺らぎはじめる…。映画史に永く刻まれる傑作を監督自らが小説化。第20回三島由紀夫賞候補作。(表紙裏)

 

三島由紀夫賞候補作。映画は西川さんの代表作として知られ、カンヌ国際映画祭ではスタンディングオベーションが鳴り止まなかったと言われるほど、評価の高い作品です。

テーマは、兄弟間の深層心理。

田舎に残り家業を継いだ兄。田舎を出てカメラマンをしている弟。過去に弟と付き合っていて、今も弟のことが好きな智恵子。兄は智恵子に好意を持っており、弟はそれを知っています。

3人で出かけた時に起こった事故。弟は兄が智恵子を殺したと思い、ある行動に出ます。真実は果たして……?

「何でお前と俺はこんなに違うの?」お互いにコンプレックスともどかしさを感じ合う兄弟関係の結末も見ものですよ。

 

終戦を知り、故郷へ……
『その日東京駅五時二十五分発』

『その日東京駅五時二十五分発』
新潮文庫

終戦の日の朝、19歳のぼくは東京から故郷・広島へ向かう。通信兵としての任務は戦場の過酷さからは程遠く、故郷の悲劇からも断絶され、ただ虚しく時代に流されて生きるばかりだった。淡々と、だがありありと「あの戦争」が蘇る。広島出身の著者が挑んだ入魂の物語。(表紙裏)

「終戦当日、ぼくは故郷広島に向かった。この国が負けたことなんて、とっくに知っていた――」(帯より)

 

西川さんの小説の中で、唯一映画化されていない小説。

テーマは、19歳の通信兵による「あの戦争」。新米の通信兵だった叔父の手記をもとに、広島出身の西川さんが作り上げた大作です。

国も戦争もどうでもいい、僕はなにも考えてない、と戦争に対して現実味を感じられず、当事者になれなかった僕。故郷・広島を目の当たりにし、戦慄するのですが……。

西川さんはあとがきで「終戦と震災、奇(く)しくもその両方に支えられながら書き上がった作品」と本書について語っています。事実として理解はしていながらも、当事者ではない人たち。その複雑な心境を巧みに描いた作品となっています。

 

西川美和さんの才気に触れて

西川さんの小説は、映画とはまた違った面白さがあります。ぜひ合わせてご覧くださいね。

 

今回ご紹介した西川美和さんの小説
永い言い訳文藝春秋
きのうの神さまポプラ社
ゆれるポプラ社
その日東京駅五時二十五分発新潮文庫

 

ライター

飯田 萌
フリーランスのライター。一児のママ。出産前まではリクルートで結婚情報誌を担当。現在はWeb媒体にて書籍、音楽、育児など幅広く執筆中。影響を受けた作家は白石一文。趣味はスイーツを愉しむこととドラマ鑑賞。