『怒り』あらすじ・魅力に迫る!|2016年映画化 謎の男3人をめぐる群像劇
更新日:2016/8/12
『怒り』
吉田修一(著)、中央公論新社
2014年に出版された、吉田修一さんの小説『怒り』。
逃亡中の殺人事件の容疑者に似た、3人の男をめぐる人々の姿を描いた作品です。2016年には実写映画化もされました。
ここでは、この映画『怒り』の原作小説について、あらすじや3人の男についてご紹介します!
八王子郊外で起きた殺人事件。犯人は整形し逃亡
『怒り』あらすじ
東京都・八王子郊外で起きた尾木夫妻殺人事件。
犯人の男は2人を刺し殺した後、その遺体を浴室へ運び、犯行現場には「怒」の血文字が残されていた。
犯人の名は、山神一也。28歳、左利きでサッカー好き、右頬に縦に3つ並んだホクロを持っている。
警察は山神のモンタージュを公開して全国へ指名手配をかけるが、1年経っても有力な情報が得られずにいた。どうやら犯人は整形のよって顔を変えて逃亡しているらしい。
山神一也は、いったいどこへ行ったのか? そこに、山神一也に似た3人の男が現れ……。
犯人に似た3人の男たち
山神一也に似た3人とは、どんな男なのでしょうか?
漁協で働く、無口だが真面目な青年・田代
愛子という娘がいる、浜崎の漁協で働く洋平。
愛子は恋人との事件がきっかけで様子がおかしくなり、ある日家出をしてしまいます。数ヶ月後に歌舞伎町のソープランドで働かされているところを保護され、洋平に連れ戻されました。
そして愛子は、この浜崎の町に仕事を求めてやってきたあるひとりの青年と出会います。青年の名前は田代哲也。田代は、洋平のいる漁協で働き始めます。
彼は無口ですが真面目な青年でした。洋平の姪・明日香の息子にサッカーを教えるうちに、だんだんと地元の人々と交流を深めていきます。
愛子も田代と親しくなり深い仲になっていきますが、田代は決して洋平や愛子に自分の過去を語ろうとはしません。
優馬と暮らし始めるゲイの青年・直人
藤田優馬は、東京都内に住む32歳、ゲイ。
彼は病気の母親にも、兄にも「自分がゲイである」ことを話していませんでした。
母親の看病のためホスピスを訪れるかたわらで、ツイッターや出会い系アプリで男と知り合い、関係を持つことを繰り返す日々。
そんなある日、新宿の発展場で直人という男と出会います。
直人を家に連れ帰り、いつしか彼と2人で暮らし始めた優馬。直人は少しずつ優馬の母親や周囲の人間にも受け入れられていきます。
しかし、直人の素性は謎に包まれていました。友達もおらず、仕事をしている様子もない直人。いったい今までどんな生活をしていたのか、優馬もわかりません。
優馬の母親は、ある日直人の右頬に縦に3つ並んだホクロを発見します。
離島の廃墟に寝泊まりするバックパッカー・田中
高校生の小宮山泉は、母親と二人暮らし。
母親が起こした不倫騒動のせいで、名古屋から福岡、そして福岡から沖縄の離島・波留間島へと逃げてきました。
波留間の高校へ通い始めた泉は、同級生の知念辰哉と親しくなります。
辰哉のボートに乗り、近くの無人島・星島へ案内された泉。そこで、廃墟に寝泊まりするバックパッカーの男・田中と出会います。
田中はときどき那覇へ行っては仕事をして、お金が貯まったら星島へやってくるという暮らしをしていました。
ある日辰哉に誘われ、那覇に映画を観に出かけた泉は田中と再会。しかしそれをきっかけに泉の身に思わぬ事件が降りかかります。
信じたいのに信じることができない、人間の複雑な感情を描く
この作品は、犯人と似た特徴を持つ3人の男と、その周囲の人々を描く群像劇です。
人間は、他人をどこまで信じることができるのか、相手に疑いを抱いたとき、いったいどんな行動を取るのか。「信じる」ということの奥深さ、難しさが描かれていきます。
心に不安や鬱屈を抱えながらも、日々を生きている登場人物たち。一度心を許したはずの相手にも、疑念を抱かずにはいられない彼らの複雑な感情が描かれていきます。
毎晩一緒にメシを食い、狭いベッドで寝ているが、結局自分は直人を信じていないのだと優馬は思う。いや、相手の何を知れば、そいつを信じられるのか、まだそれを知らないのだ。(『怒り』単行本 下巻 p.126)
物語の後半、犯人の情報が報道され、「彼は犯人ではないか」と疑いをかけてしまう洋平や愛子、優馬たち。
本当は信じているのに、疑いを消すことができない、その本当の原因に気づかされていく姿が切なく胸に迫ってきます。
複雑、だけど面白い
映画版の監督は、同じ吉田修一さんの作品「悪人」を手がけた李相日さん。
キャストは、渡辺謙さん、宮崎あおいさん、松山ケンイチさん、妻夫木聡さん、綾野剛さん、広瀬すずさん、森山未來さんなど、人気・実力ともに申し分のない役者が集結しています。
映画は既に観た方も、原作との違いを比べてみても面白いでしょう。
人間の複雑な感情を描いたこの作品、みなさんも一度読んでみてはいかがでしょうか?
今回ご紹介した書籍
『怒り』
吉田修一(著)、中央公論新社