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共感する女性多数!結婚、離婚、子育てを問うオススメ小説


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あなたは、干刈(ひかり)あがたさんという作家さんをご存知でしょうか。

わずか10年という短い作家生活の中で数多くの名作を残し、1992年に49歳という若さでこの世を去りました。彼女の作品の多くは、安保闘争、男女平等へ歩みだし始めた時期の女性を描いています。

国のあり方を問われている現在に通じる何かを持っているのかもしれません。亡くなって15年、今一度、彼女の作品からのメッセージを受け取りに行ってみませんか?

 

干刈あがたという人

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終戦前の1943年の東京府に「干刈あがた」こと柳和枝さんは誕生しました。

それから、戦後の動乱を生き抜いて東京都立富士高等学校へ進学。在学中に、高校新聞部連盟の呼びかけに賛同する形で安保闘争のデモや集会に参加を始めます。1962年には、早稲田大学第一政経学部新聞学科に入学しますが、翌年退学。その後は、コピーライターとして活動、不定期的ではありましたが雑誌のライターとして活躍をしました。

 

1975年には、『死の棘』で知られる島尾敏雄さんが「奄美郷土研究会」を結成しました。干刈あがたさんのご両親が奄美諸島のご出身であったことから、この会の会員になったのです。1980年には、会員の活動の一環として集めた島唄と自作の短編と詩をまとめた『ふりむんコレクション』を自費出版します。

 

2年後の1982年に、『樹下の家族』というで第一回海燕新人文学賞を受賞し、本格的な作家デビューを果たしました。それからは、安保闘争時代を生きた女性たちと、社会との関わりを描いていきます。彼女の作品は同じ時代を生き、似たような文化や思想をくぐりぬけてきた読者たちの共感を大いに得ていきました。

ところが、まだまだこれから……という矢先に彼女を襲ったのは「がん」でした。

作家生活を始めて8年、1990年ごろから入退院を繰り返し、1992年に胃がんで早すぎる人生の終焉を迎えてしまいました。

 

どうして「今」注目すべきなのか?

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作家・干刈あがたさんが読者の共感を多く得た理由の一つには、その物語の同時代性があげられます。同時代性というのは、物語の世界の時代と私たち読者の時代が同じであるということを意味します。

彼女が描いたのは、1980年代~1990年のこと、つまり安保闘争を生き抜いた人々の時代、そして男女雇用機会均等法という男女平等を謳った法律が制定された「変化の時代」です。社会が大きく変わろうとしていた時代に生きていた人々は何を思っていたのか、というのを『女性』の目で描いています。

 

変わりゆくとき、未来を考えるときに最も重要、かつ文字を持った人間の特権とは「過去を知ること」にあるのではないでしょうか。

過去の時代を背景に紡がれた物語には、きっと先人の知恵が含まれているのです。時代の流れだけに目を向けるならば、歴史の物語を読むといいでしょう。ですが、歴史の教科書には人の心は描かれません。どんな思いでどんな志を持って変わりゆく「時代」と向き合ってのいたかを考えるときには、同時代性のある小説がとっても力強い味方となってくれます。

 

おもな作品

◆『樹下の家族』朝日文庫

著者のデビュー作である表題作『樹下の家族』と他4編を収録しています。家族のあり方とはいったいどんなものだろうか。夫は帰ってこない家での子供たちと私だけの生活。夫の不在が、やがて「私」から安定を奪っていく……。家族のあり方、主婦の生活に潜む孤独の影など、ふとした瞬間に浮かび上がる闇を淡々と静かに、だけどはっきりと描いています。

 

◆『ウホッホ探検隊』朝日文庫

まだ、「離婚」というものが一般的ではなかった時代。それでも母と息子二人は明日へ懸命に船を漕ぎ出さねばならない。一見、重いテーマを背負った物語に見せかけておきながら、淡々と、だけどユーモラスに物語は進んでいきます。今はもう珍しくはないその新しい家族のあり方を、「探検隊」のように模索していく家族の背中は涙腺を緩ませてくれます。

 

◆『ゆっくり東京女子マラソン』朝日文庫

小学校のPTAで知り合った母親たち。彼女たちは、それぞれに離婚やいじめといった家庭内または学校内に問題を抱えていて……?厳しい現実、苦しい日常のなかでも、強くたくましく凛として子供たちと向き合っている「お母さん」がここには描かれています。最後のページを読んだとき、きっと「家族」と「人生」のあり方を考えさせて気付かせてくれます。

 

◆『しずかにわたすこがねのゆびわ』福武文庫

子供の遊びに使われたわらべ歌に、傷つきながらも生きていく女性たちを重ね紡がれた物語。20代から40代へと移りゆくときの中で、主人公たちは妻になって、母になって、そして離婚する。力強く生きようと踏ん張るのだけど、自分の足はちょっと細すぎて踏ん張るのには向いてないのかもしれなくて……

当時の女性の生き方に想いを馳せながら読むのも良、今と比べて読むのも良!どうあるべきか、何を大事にするかそんなことを考えさせてくれる物語です。

 

◆『ホーム・パーティー』新潮文庫

住み慣れた家を、都市開発の一環である高級ホテル建設用地買収により手放すことに。なんとか故郷を残すためにホテルの一室を借りる権利を得たが、これはいったい故郷と呼べるのか。芥川候補となった表題作ほか、3編を収録した珠玉の短編集です。

故郷と呼べる地はありますか?なんとなく、「故郷」に帰りたくなるような気分になります。

 

まとめ

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いかがでしたでしょうか。干刈あがたさんという作家さんをご存知だった方はもちろんのこと、知らなかったという人もぜひぜひお手に取って、その世界に浸って見てください。

物語の純粋な楽しさや言葉の使い方の美しさだけではなく、「80年代から90年代」という懐かしい時代も追体験することができますよ!「現在」を作り上げた変革の時代に触れてみることで、これからどこへどうやって進んでいくべきか、大事に守っていくべきものは何かを考えてみてはいかがでしょうか。

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