「恋愛」だけじゃない!恋愛小説の女王《江國香織》のおすすめ小説
「恋愛小説の女王」とも呼ばれる江國香織さんですが、ほろ苦い恋愛だけではないのは知っていましたか?
この記事では、意外と知らない人が多いかもしれない「恋愛だけじゃない江國小説」をご紹介します。
江國香織という人
作品のお話の前に、江國香織さんについてご紹介します。
東京都世田谷区ご出身の方で、お父上はエッセイストの江國滋さん。
1986年に書かれた「桃子」で作家デビューを果たすと、次作である「草之丞の話」で、はないちもんめ小さな童話賞を受賞。これを皮切りに直木賞をはじめとする数々の賞を総なめに。(両作品とも新潮文庫『つめたいよるに』に収録されています)
小説のほかにも、詩や絵本の制作も手掛ける幅の広い作家さんです。いろんな作品で描かれる恋愛が持つ深く輝かしい魅力は、彼女を女王と称するにふさわしいものではないでしょうか。
美しい恋愛の物語たち
女王とも称されるほどに、江國香織という人が紡ぐ恋の物語はとにもかくにも美しいものたちばかり。
イメージとしては甘いものばっかりのパフェではなく、冷えた身体も温まるしほんわか甘い、だけどたまに生姜がピリッとするチャイのような……。優しく甘いだけじゃない、苦みも辛みもあるからこその大人の恋愛。
すべてを包み込んでくれるような恋愛が描かれた作品たちはどれもこれも素敵です。
その美しい恋愛たちを際立たせるのが、その周りの物語。
恋に落ちるとなにもかもすべて違って見える、といいますが、かわらずにそこにあるものたちがそんな素敵な恋愛を支えているとも思いませんか?
美しい恋愛に更なる輝きを与えているものは、まぎれもなくそこにある日常なのではないでしょうか。
生きる、物語たち
恋愛は生きているからこそできるものです。こちらで紹介する江國作品は、恋愛の前に存在したものたちに目を向けたお話です。
家族だったり生きるということだったりと、恋愛とはまた違うところに目を向けていく物語です。
恋愛じゃない人の心や生き方を見つめていく、時折みせる闇とほのぼのとした日常が織りなす切なく悲しい、だけどほっとするそんな作品をご紹介いたします。
◆家族、そして姉妹の物語◆
大切な人を思う気持ちは、いつの時代もどんな世界でも尊く温かいものです。恋人、あるいは夫婦を描いた小説ではなく、ある家族、ある姉妹を描いた物語をここではご紹介します。
『抱擁、あるいはライスには塩を』
集英社
東京の神谷町の大きな洋館に住むのは三世代十人で暮らす柳島家。
彼らには、世間でいう「普通」とはちょっと、いや大分変った家族が抱えた100年にわたる秘密がある。
順番に家族の誰かによって語られる家族の歴史とはいったいどんなものなのか。一つ屋根の下に暮らす家族というもののあり方を、考えさせられる物語です。
『思いわずらうことなく愉しく生きよ』
光文社
結婚七年目にして夫のDVに悩む長女・麻子、仕事も恋も強気に頑張るパワフルキャリアウーマン次女・治子、ちょっと変わった恋愛観を持った三女・育子ら犬山姉妹。
三者三様、問題は大なり小なり抱えているけれど、ともに過ごした時間の記憶がそれぞれの心を支え強く結びつけている。
恋愛物語でもあるけれど、それ以上に輝くのは離れても強くあり続ける姉妹の絆。お姉さんや妹さんがいる方はもちろん、それ以外の方にも読んでほしい!
絆の美しさを謳った物語、ご堪能ください。
『流しのしたの骨』
マガジンハウスほか
幸福だけどちょっとおかしな6人家族の宮坂家の、晩秋から春にかけての生活を切り取った物語。
将来は未定、夜の散歩が最近の習慣である19歳の三女・こと子を中心に、おっとりしているけど頑固な長女・そよちゃん、妙ちきりんで優しい次女・しま子ちゃん、笑顔が可愛い小さな弟・律の四人姉弟。
そして規律を重んじるけど家族思いの父、詩人でこだわりがたくさんの母。
どこにでもいそうだけど、実際にはそういない家族の穏やかな日常が、きっと心を安らかにしてくれる物語です。
◆不思議な世界が舞台の物語◆
『雪だるまの雪子ちゃん』
新潮社
雪がたくさん降った日、雪といっしょに空から降ってきたのは雪だるまの雪子ちゃん。
目に映るものすべてが新鮮で、毎日が発見でいっぱい!雪のように真っ白で無邪気な心を持った気高き野生の雪だるまの雪子ちゃんの言葉は、雪なんか全部溶かしちゃうくらいほっかほか。
溶けちゃう前に! のドキドキハラハラでワクワクがいっぱいの冒険は、いつもの日常の中の、ちょっと変わったスパイスとなってくれること間違いなしの物語です。
『すきまのおともだちたち』
集英社
「私」が迷い込んだ世界は、「おんなのこ」が、言葉を話し車も運転する「お皿」と暮らす不思議な場所。
そこで、「お客」として迎えいれられた「私」が目にするものとはいったい?
不安定だけど、揺らがない友情は、動かない時間と止まることを知らない時間の間できっと唯一の信じられる、信じていくべきもの。決して変わることのないものと紡いでいく物語は、いつしか大人になる過程で置いてきてしまった何かかもしれない。
不思議な世界でみつけた友情の物語は大切な何かを呼び起こしてくれるかもしれませんよ。
『ホテル カクタス』
集英社
ホテル カクタスに暮らすのは、帽子ときゅうりと数字の2。ひょんなことから、友達になった彼らが過ごす日々は、次第にかけがえのない宝へと変わっていく。
不思議すぎる日常の中で、光り輝くものは誰もが知っているけれどみんながみんな気付けないものたちで……。
彼らが織りなす、ちょっとおかしくて不思議な日常はとっても楽しいものだけれども、その分そこには哀愁も深く切なく漂います。
三者三様の登場人物、あなたは誰が一番自分に近いと思いますか?
いつもと違う角度から見る日常は、見落としていたものや忘れてきたものを教えてくれる。ちょっぴり寂しいけれどとっても楽しい物語を私たちに届けてくれるようです。
恋愛小説以外も面白い!
愛する人、恋する人を見つめることもとっても素敵でかけがえのないものです。
時にはちょっと振り返ってみて家族や友人と紡いだ物語にも目を向けてみてはいかがですか? いままでには気付くことができなかった魅力がたくさんみつかるかもしれませんよ。
ほっと一息つきたいときなどにお勧めします。作家さんの世界を多角的に感じてみることもたのしい読書の一面でもあるように思います。
今回紹介した江國香織さんの作品
『抱擁、あるいはライスには塩を』
集英社
『思いわずらうことなく愉しく生きよ』
光文社
『流しのしたの骨』
マガジンハウスほか
『雪だるまの雪子ちゃん』
新潮社
『すきまのおともだちたち』
集英社
『ホテル カクタス』
集英社