辻村深月作品を読むおすすめの順番は? 3つのコースで紹介
更新日:2016/5/20
2018年に『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞した作家の辻村深月さん。
今回は、「辻村深月さんの作品は、どんな順番で読んでいくといいの?」という疑問の解消など、辻村深月さんの作品をもっと楽しく読む順番をご紹介していきたいと思います。
辻村深月ワールドとは?
辻村深月さんは、山梨県出身の作家さんです。
2004年に『冷たい校舎の時は止まる』(講談社)で、メフィスト賞を受賞し作家としての一歩を歩みだします。デビュー以来、数多くの賞を受賞しており2012年には『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞しています。
辻村深月さんの描く作品には、たびたび<同一人物>が登場します。
どの作品も単独で読んでも十分に楽しめる内容ではあるのですが、作品によっては「あれを先に読んでおけばよかったかな」とか、「印象が変わったかもしれない」なんて思うこともあるかもしれません……。
そこで、3つの作品を入り口として、そこから作品を読んでいくおすすめの順番をご紹介していきたいと思います。
おすすめはこれ!コース別の「読む順番」
■その1『冷たい校舎の時は止まる』コース
1.『冷たい校舎の時は止まる』(講談社文庫)
この作品は、辻村深月さんが高校生のときから描き始め、大学4年間で仕上げた長編小説です。辻村深月さんの原点といってよいでしょう。辻村深月ワールドにどっぷりハマるなら、最初はこの本から読むことをおすすめします。
いつも通りに登校したはずの8人のクラスメイトをまっていたのは雪に包まれた校舎の姿。
いつまでたっても姿を見せないほかのクラスメイトに担任の教師。
帰ろうとしても、出口という出口は片っ端から閉められていて出ることができなくなっている。校舎に閉じ込められてしまった彼らの頭をよぎるのは、2か月前に自殺したクラスメイトのこと。
けれども、どうしても思い出すことができない。彼らを待ち受ける運命は……?
2.『ロードムービー』(講談社文庫)
『ロードムービー』は2008年に発表された、辻村深月さんにとって記念すべき初の短編集です。
『冷たい校舎の時は止まる』で描かれたあの日、時間の止まった冷たい校舎で特別な体験をした彼らが歩んだ”その後”とはいったいどんなものだったのか……。
『冷たい校舎の時は止まる』のスピンオフですが、スピンオフにするのは惜しいという読者も少なくありません。
3つの短編が収録されていますが、どの短編から読んでも楽しめますよ。
3.『光待つ場所へ』(講談社文庫)
「しあわせのこみち」「アスファルト」「冷たい光の通学路」で描かれる人物たちは、『ロードムービー』では再会が出来なかった仲間たちの物語が描かれる短編集です。
この3つの短編はロードムービー収録作品と『冷たい校舎の時は止まる』『凍りのくじら』『名前探しの放課後』『ぼくのメジャースプーン』を読んだあとに手にとることをおすすめします。
■その2『子どもたちは夜と遊ぶ』コース
1.『子どもたちは夜と遊ぶ』(講談社文庫)
『子どもたちは夜と遊ぶ』は、2005年に発表された辻村深月さんの2つめの作品です。辻村深月さんいわく「書いている最中と書き終わったあとに大泣きして、どっぷり感情移入した作品」とのこと。
事件の始まりは、受験を控えた高校生の失踪だった。謎の事件で世間が騒然とするなか、木村浅葱だけはその真実を知り、人知れず謎の存在「i」の姿を追い求めていく。
狐塚や月子、恭司らと送るにぎやかでたのしい日常がみせる光と「i」が魅せる闇。その先で、浅葱がついに見つける真実とは。
大人になりきれない子供の悲痛な叫びと、届かなかった愛が織りなす最悪な結末は私たちに何を訴えるのか。真実を知ったとき、もう一度読みたくなる物語です。
2.『本日は大安なり』(角川文庫)
大安の日の結婚式場の一日はとにかく大忙し! 行われるのは4組のカップルの結婚式だけど、なんだかそれぞれ訳ありで……!?
果たして結婚式は無事成功するのか?ドタバタ結婚式の結末はいかに。『子どもたちは夜と遊ぶ』を読んでいるとわかっちゃう狐塚と石澤が……登場するとかしないとか?
2011年の第24回山本周五郎賞候補作であり、2012年にはタレントの優香さん主演でドラマ化された作品です。ぜひ、お手に取って見てください。
3.『ぼくのメジャースプーン』(講談社文庫)
可愛がっていたウサギが、暴力の限りを尽くされ殺された。ショックを受けたふみちゃんは、心を閉ざし言葉を失くしてしまう。大事な友達のため、大事な人のために、小さな「僕」の、「僕」にしかできない復讐が始まる。
果たして、「僕」はふみちゃんの心を開き、言葉を取り返すことができるのか。いつか不思議に思った言葉の一節の謎が解けたり、彼と彼女の元気な姿に出会うこともできるかもしれない……?
誰かを思うことのすばらしさを教えてくれるような、優しい物語です。
本作では『子どもたちは夜と遊ぶ』で解決されなかった謎が判明します。
読む順番としては、先に『子どもたちは夜と遊ぶ』を読んでから手にとることをおすすめします。
4.『名前探しの放課後』(講談社文庫)
「誰か」が自殺した。藤見高校に通う1年生の依田いつかは、ある日、「誰か」が自殺する3か月前の日常に戻ってしまう。3か月後に自殺するのはいったい誰か、命を救うための放課後がはじまる。
いつかとともに、「誰か」を探す友人たちにみる懐かしい面影。高校生のときの自分を思い出しながら読んでいくと、懐かしいようでくすぐったいような感覚もともに味わえるかもしれない青春ミステリー小説です。
『ぼくのメジャースプーン』では、小学校4年生だったある登場人物が高校生に成長して再登場するところも見逃せません。子どもだった彼らが、すっかり大人になって、なんだか嬉しくなります。
■その3『凍りのくじら』コース
1.『凍りのくじら』(講談社文庫)
写真家の父がある日突然姿を消してから、5年が経った。理帆子は、大好きな藤子・F・不二雄の言葉をもじって、「スコシ・ナントカ」と物事を斜めに見がち。
でも、夏のある日に図書館で「写真を撮らせてほしい」と言った青年との出会いで彼女の運命の歯車は大きく動き出す。
やがて、ものごとを「スコシ・ナントカ」で捉えることは難しくなっていき……?
散り散りになったものたちがつながったとき、包む空気は温度を変える。時空を超えた愛の物語です。そして、ちょっとドラえもんが読みたくなるそんなお話です。
本作も『子どもたちは夜と遊ぶ』『ぼくのメジャースプーン』とリンクしています。本作で『ぼくのメジャースプーン』の登場人物・ふみちゃんがしゃべれなくなった原因が判明するので、ファンの方は必見です。
2.『スロウハイツの神様』(講談社文庫)
スロウハイツには、脚本家の赤羽環、人気作家のチヨダ・コーキ、友人たち(芸術家の卵たち)が住んでいて、切磋琢磨しながら楽しい日常を送っていた。空室201号室が埋まるまでは……。
201号室の新たな住人・莉々亜が登場することで、大きく変わりだすスロウハイツでの生活。そして、徐々に明らかになっていく10年前の事件と、その裏で紡がれていた優しく切ない物語の真相がわかったとき、きっと心が温まります。
『凍りのくじら』の主人公・芦沢理帆子が写真家になって再登場します。彼女の成長も見逃せません。
3.『光待つ場所へ』(講談社文庫)
『光待つ場所へ』には3つの短編作品が収録されています。それぞれの作品に『冷たい校舎の時は止まる』『スロウハイツの神様』『ぼくのメジャースプーンの』の脇役たちが主人公として登場します。
本作収録の「チハラトーコの物語」で語られる、彼女の真実。嫌いだった彼女もきっと好きになれる。
さらに、深みを与えてくれる「スロウハイツ」の別の物語です。
4.『V.T.R.』(講談社文庫)
本作の設定は、『スロウハイツの神様』の人気作家チヨダ・コーキのデビュー作。彼の描く物語を読むことができます。チヨダ・コーキが気になるかも……と思った人、必見です。
『スロウハイツの神様』→『V.T.R』 の順番で読んでみてくださいね。
辻村深月作品の絡まり合う物語と登場人物
いろんな作品を読んでリンクを発見してみて、作品を超えたちょっと不思議な世界に浸れるところが辻村深月さんの作品の魅力です。
単品でもそれぞれ十分に面白いのですが、可能であれば発表された順番通りに読んでみることをおすすめします。順番通りに読むと作者が作品にこめた深いメッセージに気づくかもしれませんよ。