「日常の謎」に挑め!血なまぐさくないミステリー小説
更新日:2019/10/29
バラバラ殺人や密室殺人。
ミステリー小説と聞いたとき、こういった血なまぐさい殺人事件を連想する方も多いのではないでしょうか。
けれどもミステリー作品のなかには、人が死なない「日常の謎」を描いた作品があります。
ここではそんな「日常の謎」を描くミステリー小説をご紹介します!
日常の謎 とは?
日常の謎とは、
「お父さんの靴下が消えた! あ! あんなところに。でもなぜあんなところに?」
といったような日常生活に潜む謎を紐解くジャンルです。
もっともこれは私が考えたへっぽこな謎であり、出版されているものはもっと優れた上質な謎が用意されているため、そこは誤解なきようお願いいたします(汗)
日常の謎の魅力は、現実の延長線上にあるところです。
殺人事件となると、話が大きすぎて現実離れした印象を受け物語に入りこめない方もいるかもしれませんが、日常の謎の場合その心配は御無用です。
それでは、日常の謎をテーマにした傑作ミステリー小説をご紹介していきます。
『空飛ぶ馬』
『空飛ぶ馬』
北村薫(著)、東京創元社
落語家の春桜亭円紫と、落語好きな女子大生の「私」を中心に繰り広げられるミステリー。「私」の持ち込む謎を、円紫が己の洞察力で解決します。
落語家と女子大生という異色のコンビが誕生! 「円紫師匠と私」シリーズの第1作目です。本作は、「日常の謎」というジャンルを世に広めた作品といっても過言ではありません。
殺人事件などの大きな事件でなくてもこんなに面白いのか! と思わせてくれた作品です。
ちなみに本作は安楽椅子探偵ものとしても楽しめますよ。
『和菓子のアン』
『和菓子のアン』
坂木司(著)、光文社
舞台はデパートの地下にある和菓子屋「みつ屋」。そこで働くアルバイトの杏子の成長、お客様が持ち込む謎、そして和菓子の魅力を存分に描いた作品です。
みつ屋の従業員たちがなんとも個性豊か! 賑やかで、全体的にはほのぼのとした雰囲気です。和菓子の意味、そして隠されている秘密など、その奥深さにも惹かれました。
謎解きだけでなく、和菓子の素晴らしさもたっぷりと堪能してくださいね。
『七つの海を照らす星』
『七つの海を照らす星』
七河迦南(著)、東京創元社
それぞれの事情で家族と暮らせない子供たちが集まる児童養護施設「七海学園」。
ここには「学園七不思議」と呼ばれる言い伝えがあり、子供たちが怪異の存在を噂していた――。
保育士の春菜さんが、児童福祉司の海王さんに相談して謎を解いていくという作品。現在と過去を行き来しながら、学園で暮らす子供たちの日常に潜む謎に迫っていきます。
それぞれの子供が抱える背景は重たいものですが、不思議と暗い印象はありません。すべてバラバラなお話のようで、最後に驚きの展開を迎えます。
『赤ちゃんをさがせ』
『赤ちゃんをさがせ』
青井夏海(著)、東京創元社
自宅出産専門助産師の聡子と助手の陽菜が、それぞれの家族が抱えた謎を解決していくミステリー。「助産師探偵」シリーズの第1作目です。
3人の妊婦から本妻を捜すなど、ユーモアあふれる短編を楽しめます。
著者の青井さんは、ご自身の助産院での出産体験をもとに、「妊婦でも安心して読めて胎教に悪くないミステリー」「人が死ぬのではなく生まれてくるミステリー」として本シリーズを書き始めたそうです。
第3話では、陣痛の波に乗せて大きな声で「マイ・フェア・レディ」のナンバーを歌いながらの出産シーンが2度出てきます。
究極のお産を通して、命がこの世に生まれ出る神秘を感じずにはいられません。
『配達あかずきん 成風堂書店事件メモ』
『配達あかずきん 成風堂書店事件メモ』
大崎梢(著)、東京創元社
「本を探しているというより、相談に乗ってもらいたいんだ」(14ページ)
男性客が差し出してきたメモ用紙に書いてあったのは、謎の言葉だった。
寝たきりのお爺さんが不自由な言葉でリクエストした3冊の本とは一体何なのか? 成風堂書店の店員の杏子と、女子大生バイトの多絵の推理が始まる。
大杉梢さんのデビュー作で、「成風堂書店事件メモ」シリーズの第1作目。書店勤務の経験を活かした書店が舞台のミステリーです。
書店の仕事や裏話も楽しめるので、本好きにはたまらない作品です。
『ビブリア古書堂の事件手帖~栞子さんと奇妙な客人たち~』
『ビブリア古書堂の事件手帖~栞子さんと奇妙な客人たち~』
三上延(著)、KADOKAWA
「わたし、古書が大好きなんです……人の手から手へ渡った本そのものに、物語があると思うんです……中に書かれている物語だけではなくて」(54ページ)
こちらは古書にまつわるミステリー。「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズは、ドラマや映画にもなった人気シリーズです。
北鎌倉にある「ビブリア古書堂」の店主の栞子は、古本に関しては膨大な知識と類まれな情熱を持っている女性です。
そんな彼女が、本を読めない体質の大輔とともに、古本をめぐる人々の物語を鮮やかに解き明かしていきます。
本の持ち主、本の作者、その本の前の持ち主など、1冊の古書にはさまざまなストーリーがあるだと知りました。
非常に心温まる作品です。
『氷菓』
『氷菓』
米澤穂信(著)、角川書店
「やらなくていいことなら、やらない。やらなければいけないことは手短に、だ」(8ページより)
神山高校1年生の折木奉太郎は、姉の勧めで古典部に入部。
そんな折木の元には、思いがけず作られた密室の謎、毎週借りられる不思議な本の謎など、さまざまな不思議な謎が持ち込まれる。
「省エネ」をモットーに生きる折木は、渋々それらの謎を解いていく。
アニメや漫画にもなった大人気<古典部>シリーズの第1弾。
日常の謎と青春をかけ合わせたミステリー作品で、連作短編の構成となっています。
本作は、ただの謎解きに終わらないところに大きな魅力があります。
非常に細かく丁寧な文体で描かれる心理描写や、思春期ならではの人間関係の巧みさ。上質な青春小説としても楽しめます。
『チルドレン』
『チルドレン』
伊坂幸太郎(著)、講談社
独特の哲学を持ち周囲を振りまわす、だけど憎めない男、陣内。彼を中心とした日常の謎が5つ描かれます。
その5つの物語に繋がりが生まれたとき、そこには奇跡が――。
本作には、目を惹くような謎だけではなく、登場キャラクターにも魅力が詰まっています。
トリックスター的な役割を果たす陣内はもちろん、謎を解き明かす盲目の永瀬、家庭裁判所の調査官の武藤など、脇を固めるキャラクターも個性的で魅力的です。
読み味は爽快で、落ち込んだときに読むとパワーをくれる小説となっています。
『春期限定いちごタルト事件』
『春期限定いちごタルト事件』
米澤穂信(著)、東京創元社
「小市民」として、つつましやかに生活をしたい高校1年生の小鳩君と小佐内さん。
ところが度々現れる日常の謎を前に、小鳩君は持ち前の探偵脳で、謎を解決に導いてしまう。果たして彼らが「小市民」になれる日は来るのか――?
少し変わった少年少女と、日常の謎を描く「小市民シリーズ」第1弾。
連作短編小説となっており、描かれる日常の謎は「美味しいココアの作り方」や「ポシェットの行方」など計5つ。どれも論理的な解決と、思わず唸るような真相が用意されています。
軽妙な文体で展開され、登場人物たちもどこかコミカルでユーモラス。けれども話の裏では思春期特有の煮え切らない悩みなどが漂っていて、どことなく切ない雰囲気で満ちています。
面白い、だけどほろ苦い読み味の本作。ノスタルジックな気分に浸りたい人には特におすすめです。
『青空の卵』
『青空の卵』
坂木司(著)、東京創元社
平凡なサラリーマンの坂木には、引きこもりの親友がいる。親友の鳥井は引きこもりだが、洞察力に優れていた。
鳥井を外に連れ出したい坂木は、彼の元に身の回りの不思議な出来事を持ち込み、解決を依頼するが――。
「ひきこもり探偵」シリーズの第1作目、5つの日常の謎で構成された連作短編集です。
人間心理を巧みに絡めた謎が多いのが特徴。謎を解き明かしたあとには、考えさせられるようなメッセージが浮かびあがってきます。
さらに、坂木と鳥井の友情や謎を通して出会う人々との交流もしっかり掘り下げられています。謎解きに終始せず、人間心理にスポットを当てた本作は、ヒューマンドラマとしても完成度が高い作品です。
上質なミステリーを読んでみては
ミステリー読みにも、ミステリー初心者にもおすすめした日常の謎ミステリー。
まだ読んでいない方は、一度手にとってみてはいかがでしょうか。
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