意外と奥深い? 大人も楽しめる絵本の世界
更新日:2016/4/14
皆さんは書店に行って絵本コーナーをチェックするでしょうか。
私は、しません(きっぱり)。
これまで絵本とは縁遠い生活をしてきたわけですが、あるとき気になりました。「最近の絵本ってどうなっているんだ?」と。
そこで、最近売れ筋の絵本をリサーチしてみることにしました。期待に胸を膨らませて始まった絵本探し、終わってみれば「おお、スゴイ」の連続でした。
ここでは、そんないろんな意味でスゴイ絵本を紹介します。
『オセアノ号、海へ!』
『オセアノ号、海へ!』
アヌック・ボアロベール(著)、ルイ・リゴー(著)、松田素子(訳)
アノニマスタジオ
21世紀もずいぶん経ちますと、エンターテインメントの世界も世紀の当初と比べて様がわりしてきました。
映画やゲームが3Dとなり、あまりの進捗の早さに目が回るばかりです。
しかし絵本だって負けてはいません。絵本だって飛び出します!というわけで、飛び出す絵本『オセアノ号、海へ』を紹介します。
もちろん本を開くと絵が飛び出すのですが、飛び出し方にアイデアが満載です。
たとえば、海面が仕切りのように飛び出すことで、海の上と海の中が立体的に区別され、おまけに海の上には立体的な船が浮かび、一方の海の中では立体的なサンゴ礁の合間にお魚さんが隠れている、といったように飛び出し方にグラデーションがあるところがスゴイです。
『きょうのおやつは』
『きょうのおやつは』
わたなべちなつ(著)、福音館書店
福音館書店から出ている「かがみのえほんシリーズ」で、『きょうのおやつは』と『ふしぎなにじ』の2冊が出版されています。
『オセアノ号、海へ!』と同じ飛び出す系の絵本ですが、このシリーズは鏡の反射を使って光学的に飛び出します。「いや〜その手があったか」という、アイデアの勝利とも言うべき絵本です。
鏡によるこの現象自体は、中学・高校の物理で習う周知の事実ですが、それを絵本に応用できる作者の柔軟性がうらやましいです。
『ちがうねん 』
『ちがうねん』
ジョン・クラッセン(著)、長谷川義史(訳)
クレヨンハウス
「なにがちがうねん」とツッコミたくなるタイトルですが、“This is Not My Hat”という絵本の翻訳です。なぜか大阪弁。この絵本、種も仕掛けもありません。
シュールな絵柄で、のんびりとした作品空間が広がっています……結末を除いては。しかしこの結末、いろいろな解釈ができそうです。大人こそ楽しめる絵本かもしれません。
同じシリーズには『どこいったん』という作品があります。「なにがどこいったん」とツッコミたくなるタイトルですが、 “I Want My Hat Back”という絵本の翻訳です。
こちらもなぜか大阪弁。なんでやろ。ちなみに、関西弁訳の絵本としては別の作家の作品で、『ぼちぼちいこか』という絵本もあるようです。
『プリンセス・プーパックとナオ』
『プリンセス・プーパックとナオ』
よっちんΩちん(著)、おさだかずな(絵)
木楽舎
ついに来たか、という感じのAR (Augmented Reality、拡張現実)を応用した絵本です。
簡単にいえば、指定のアプリをダウンロードしたスマホやタブレットを使って、絵が飛び出したり、音楽が流れたりと、今までできなかったことが可能になる未来の絵本です。
絵本のフロンティアとも言うべきAR絵本、まだまだ数は少ないですが、これからどんどん伸びていく分野であろうと思います。これからの動きに注目です。
※対応アプリのサービス終了に伴い、残念ながらこの絵本のAR機能は使えないようです。
『マックスとモーリッツ』
『マックスとモーリッツ』
ヴィルヘルム・ブッシュ(著)、佐々木田鶴子(訳)
ぽるぷ出版
AR絵本とはうってかわって、古い絵本をご紹介。『マックスとモーリッツ』はドイツの古典ともいえる絵本で、1865年に出版されました。
私は、ドイツ語の読み物としてこの絵本に出会ったのですが、その内容に衝撃を受けました。
ストーリーは、二人のいたずら小僧マックスとモーリッツが繰り広げる7つのいたずらを追っていくというもの。どこか「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」を彷彿とさせます。
で、そのいたずらがとにかく凄いんです。そして悪質を極めたいたずらの果てには、もう目もあてらないようなエンディングが待っています。
『アバドのたのしい音楽会』
『アバドのたのしい音楽会』
クラウディオ・アバド(著)、パオロ・カルドニ(絵)
評論社
ベルリン・フィルハーモニーの常任指揮者として活躍した、イタリア人指揮者、クラウディオ・アバドが手がけた絵本です。
オーケストラの楽器解説や、指揮者について、世界的指揮者アバドが語るとあれば、素晴らしい絵本にならないはずがありません。
アバドさんは残念ながら2014年に亡くなられてしまいましたが、ユースオーケストラ「グスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団」を組織するなど、後進の育成に精力的でした。
私が小さい頃、この本を読み聞かせてもらっていたらなあ、と思う1冊です。アバドが指揮したモーツァルトのCDを流しながら読み聞かせすると、将来素晴らしい音楽家になるかも?
ちなみに、アバドはマーラーに定評のある指揮者です。しかし、読み聞かせにマーラーを流すと大変なことになりますので、くれぐれもご注意ください。
『絵のない絵本 』
『絵のない絵本』
ハンス・クリスチャン・アンデルセン(著)、山室静(訳)
童心社ほか
『絵のない絵本』といわれると、つい絵をつけたくなってしまうのが人情でしょうか。というわけで、「絵のない絵本の絵のある絵本」を紹介します。
いわさきちひろの絵と、北欧文学好きには有名な山室静の訳による童心社版のほか、小学館からも出ているようです。
思い出の絵本『きかんしゃやえもん』
最後に、ハイテク機能を使ったのでもなければ、びっくりするような仕掛けがあるわけでもないけれど、私にとって大切な1冊を紹介します。
唐突な「問わず語り」ですがお許し下さい。
『きかんしゃやえもん』
阿川弘之(著)、岡部冬彦(絵)
私が人生ではじめて「自分の本」として買ってもらった本が『きかんしゃやえもん』です。
おぼろげな記憶ですが、たしか食材宅配で買ったのだと思います。幼い私がこの本をどのように読んだのかはわかりませんが、成長してから読んでも、やはり心にしみるいい絵本です。
大人になってから読むと、けっこう現実的な内容であることに気づきますが、読んでいる時の心の揺れ動きは、昔とあまり変わらないような気がします。
大人が絵本を読むとき、ついつい教訓に意識がいってしまいがちですが、無意識に経験する感情の動きにこそ絵本の力がある、そんなことを思う今日このごろです。
素敵な絵本と出会おう
ところで、皆さんの「思い出の絵本」はなんでしょうか。
『100万回生きたねこ』でしょうか、『はらぺこあおむし』でしょうか、『ぐりとぐら』? それとも『いないいないばあ』でしょうか。
そして、その絵本を読んでどんなことを思い出しますでしょうか?
読み聞かせの声だったり、小学校の図書館だったり、食材宅配だったり、子供のときに読んだ絵本には、当時の記憶が染みつくものです。
子育て真っ最中の方はぜひ、お子様が大きくなっても心に留めてくれるような、素敵な絵本を読み聞かせてあげてくださいね。
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