初心者でも読みやすい芥川龍之介のおすすめ小説
更新日:2019/8/1
芥川龍之介といえば、純文学の代表作家であり、昔から国語の教科書に多くの作品が取り上げられています。学校の授業でも習ったことがある方も多いのではないでしょうか?
芥川龍之介は、若くして亡くなったことが惜しまれる作家の一人です。それでも十数年の作家活動のなかで、多くの短編小説を書き残しました。
難しい言葉遣いや回りくどい表現は使わずに、リズムの取れた読みやすい文章と、無条件で感心してしまうストーリー構成が見どころです。
ここでは、そんな芥川龍之介の作品の中でも、際立って教訓的であり、ビギナーでも読み進めやすい作品をピックアップしてみました!
優れた文学は大人になってから読むと、子供の頃とはまた違った魅力を感じるものです。それぞれの見どころや概要をご紹介していきます。
「地獄」から抜け出せるのか?
蜘蛛の糸
『蜘蛛の糸』
角川春樹事務所ほか
短いながらも、子どもから大人までストンと納得のできる結末から人生の教訓を得ることができる作品です。
実写やアニメなどで何度も映像化されているので、ストーリーを知っているという人も多いかもしれません。
そのほか、漫画や小説の原作になったり、国内アーティストの楽曲でオマージュされたりと、多くの人にインスピレーションを与えている作品でもあります。
この作品のおもしろいところは、読み手によって「最も心に刺さるメッセージが変わる」という点ではないでしょうか。
以前に読んだことのある方も、ストーリーは知っているという方も、いま改めて読み返すことで、違った物語のとらえ方ができるかもしれませんよ。
児童向けでもある短編作品なので、芥川龍之介の作品に初めて触れるという方にも気軽に進められる作品です。
こんな発想があったのか!
『桃太郎』
「蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ」より『桃太郎』
岩波書店
「日本人なら知らない人はいない」といっても過言ではないほどに有名な昔話「桃太郎」。それを、芥川龍之介が新しい観点から描いた異色の作品です。
誰もが、当たり前に疑うことのなかった桃太郎という設定に新説を立て、別の物語のように仕上げています。
スパイスの利いた大人向けの内容なので、あくまでも桃太郎のパロディものとしてブラックユーモアな世界観を楽しめる方に読んでいただきたい作品です。ラストの締めもハッとさせられますよ。
日々の代わり映えしない生活に溜まった鬱屈や、理不尽な世間の常識に嫌になったとき、ふと読み返したくなる作品です。
親子の情愛とは……
『杜子春』
『杜子春』
角川書店ほか
波乱万丈な経験をする主人公の心理描写がとても緻密かつリアルに描かれており、どんどん惹き込まれていってしまう作品です。
中国の古典作品である『杜子春伝』がもととなっていますが、児童文学として教訓的で読み応えのある、芥川龍之介らしい内容にまとまっています。
人間の本質に追訴する内容が随所にちりばめられており、大人になってから読んでもとてもおもしろいです。
結末はすべてが上手くいくわけではありませんが、読み手の気持ちが温かくなる作品で、芥川龍之介の作品には珍しい流れかもしれません。
人間関係に疲れを感じているときになどにぜひ読んでみてもらいたいです! お子さんのいらっしゃる方は、お子さんと一緒に読まれてみるのもおもしろいと思いますよ。
生きるために「悪」になる
『羅生門』
『羅生門』
新潮社ほか
人間の利己的な面をクローズアップして描いた、芥川龍之介初期の短編作品です。
高校の教科書などでよく扱われている作品なので、内容は忘れてしまっていても、タイトルや文章の一節は記憶に残っている方も多いかもしれません。
短編ではありますが、的確な表現で主人公の心の内側を深く掘り下げているため、しっかりとした読み応えがあります。
「やっぱりか……」と言いたくなるような皮肉めいた結末になっていて、読後に自分や身の回りに当てはめて振り返り、自省したくなることでしょう。
物語の舞台は平安時代の末期ですが、現代社会にも当てはめて考えられる設定であり、変わらず続く人間の本質にも気付かせてくれる作品です。
真相は誰にも分からない
『藪の中』
『藪の中』
講談社ほか
真実の見えない状態を表す「藪の中」という言葉の語源となった作品です。
この言葉の意味の通り、最後まで物語を読んでもストーリーの真相が分からないという未完結性が特徴的な内容で、何度も何度も読み返したくなる作品になっています。
しかし何度読んでも、結局は作者である芥川龍之介にしか真相は分からない、という事実を再認識することになるでしょう。
発表当時だけでなく、現在もさまざまな考察・研究が行われており、その数と質は芥川龍之介作品の中でもトップクラス。
全体を通してテンポ感よく流れるストーリー、簡潔ながらも場面がよく表されている文章力、そして真相が明示されていないにもかかわらず一つの作品として成り立っているという点から、芥川龍之介の力量を改めて感じることができる作品です。
⇒「真相は藪の中」の語源は小説だった?! 芥川龍之介『藪の中』
少年が、大人の世界を体験する
『トロッコ』
『トロッコ』
角川グループパブリッシングほか
『藪の中』が発表され、そのわずか2ヶ月後に発表されたトロッコに夢中になる少年を描いた短編小説です。
物語の舞台は、小田原と熱海の中間にある村。そこでは鉄道工事が行われていました。
主人公の少年・良平は、トロッコで土を運ぶ土工に憧れ、トロッコを押したり乗ったりして遊びます。そんな良平が、ある日遠くまでトロッコを押すことになるが……。
トロッコや土工など大人の世界に触れ、さらにトロッコで遠くまで行った後の良平に起こる出来事や、心境の変化がみどころです。
トロッコに乗らなくても、少年・少女から大人に成長する様子は今も昔も共通したものがあるとわかります。
蜘蛛の糸などと同じく、児童も読みやすい作品であることから一部の中学校の教科書に採用されています。小説をちょっと苦手と感じている方にもおすすめですよ。
いずれも名作ばかりです!
ご紹介した芥川龍之介作品の中で、気になるものはありましたか? まだ読んだことがないという方は、この機会にぜひ手に取ってみていただけると嬉しいです。
一度読んだことがあるという方も、改めて読み直してみると違った見方や感想が得られるかもしれませんよ。
また、今回ご紹介しきれなかった数々の作品もクオリティが高く読み応えのあるものばかりです。気に入った作品と発表時期の近いものを中心に選んで読んでみてはいかがでしょうか。
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