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芥川龍之介『藪の中』|「真相は藪の中」の語源は小説だった?!


更新日:2018/2/8

みなさんは、「真相は藪の中」という言葉をご存知でしょうか?

物事の真相が明らかになっていないときに使う言葉で、一度は聞いたことがある、もしくは使ったことがあるかもしれませんね。でもよく考えてみたら、なんで「藪?」と思いませんか?

実はこの言葉、芥川龍之介の『藪の中』という小説が語源なのです。

ではなぜ小説のタイトルが語源となったのか。それは、この物語の「真相」が、明らかになっていないから

『藪の中』は、書かれてから100年近く経った今でも、その真相の議論が絶えない傑作。
ではどういうお話なのでしょうか?

 

『藪の中』のあらすじ

『藪の中』表紙

藪の中
芥川龍之介(著)、講談社ほか

わたしが搦め取った男でございますか? これは確かに多襄丸(たじょうまる)と云う、名高い盗人でございます――。馬の通う路から隔たった藪の中、胸もとを刺された男の死骸が見つかった。殺したのは誰なのか。今も物語の真相が議論され続ける「藪の中」(表紙カバー裏より)

 

「真相は藪の中」

まさにその言葉通りの小説。ある藪の中で、殺人事件と強姦事件が起こり、それについて7人の男女が証言をする、というストーリーです。

小説というよりも、実録証言集! みたいなイメージですかね。ニュースで目撃情報を喋っている4人と、裁判で証言する当事者の3人、と考えるとイメージしやすいかもしれません!

 

当事者、というのはこの3人。

・自分が男を殺したという多襄丸(盗人)
・死んだ男
・死んだ男の妻・真砂

え、自白してるし、犯人、多襄丸じゃ? と思いますよね。
それに、証言が7つもあれば、真実にたどり着くはず、と思うでしょう? いやいや、一筋縄ではいかないのが、この『藪の中』。

これが普通のミステリー小説であれば、誰がなぜどうやって殺したのか、真相が明らかになっていくのが普通でしょう。
ですが『藪の中』は、いったい、誰が男を殺したのか、どうにもよくわからない。つまり、みんな同じ事件のことを話しているのに、なぜか7人の証言が食い違っているのです。

 

第一発見者のキコリの証言から、この物語は始まります。

7人の証言しか、わたしたちが頼れるものはありません。では、藪の中で何があったのでしょうか。7人の証言を読んで、じっくりと考えてみてください。

血なまぐさい事件であるのに、幻想的な美しい情景が浮かぶ『藪の中』。芥川の美しい言葉は、極限状態の男女の姿を、美しく、鮮明に映し出します。

あなたは、藪の中で生まれたこの事件の真相を見抜けるでしょうか? ミステリー小説好きにもたまらない一作ですよ!

 

『藪の中』の真相はどこにある?

今でも、『藪の中』をモチーフにした映画や舞台がたくさん制作されています。有名なのは、黒澤明監督の「羅生門」。芥川の『羅生門』をベースに、「藪の中」の真相を暴くという映画です。

あらゆる芸術に影響を及ぼし、100年近く経った今も、読んだ者の頭を悩ませ続ける『藪の中』。

ぜひあなたなりの「真相」を、探してみてくださいね。

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今回ご紹介した作品

藪の中
芥川龍之介(著)、講談社

 

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