近未来が舞台の小説|いつか現実になるかもしれない世界とは
更新日:2020/2/18
近い将来に起こるかもしれない近未来。
あまりに遠い未来でないからこそ、現実味があり興味を惹かれるものがあります。
かつてSF小説などに登場したデジタル機能や人工知能、ロボットなども、すでに身近なものになりつつあります。
ここでご紹介するのは、近未来を舞台にした小説です。作家たちが描く「近未来」は、はたしてどんな世界なのでしょうか――。
『公開法廷 一億人の陪審員』
『公開法廷 一億人の陪審員』
一田和樹(著)、原書房
国民の裁判への理解を進める目的で、抽選によって選ばれた国民が裁判に参加する「裁判員制度」。もし、こうした国民参加型の裁判が、悪い方向に進んでしまったらどうなるのでしょうか。
『公開法廷 一億人の陪審員』は、重大な事件までもが全ての国民の目の下で裁かれる、近未来の公開法廷をテーマにした作品です。
インターネットで裁判が見られる、インターネットで投票して国民の総意を決めるといった要素は、近年のインターネット社会に通じるところがあります。
現実でも、もしかしたらあり得るかもしれないといった部分に共感を抱きやすい作品です。
国民総意は本当に善なのか? 裁判がエンターテイメントになってしまわないか? など、同時にさまざまなことを考えさせられます。
『希望の国のエクソダス』
『希望の国のエクソダス』
村山龍(著)、文藝春秋
失業率が70%をオーバーし、円の価値が1ドル150円に下落した日本で、中学生80万人が一斉に不登校をはじめる。
中学生たちは「ASUNARO」というネットワークを構築。インターネットを活用しながら巨額資金を手にし、やがては北海道で独自通貨を発行するまでに成長していくが――。
少年犯罪・学級崩壊といった社会問題を背景にしつつ、インターネットを駆使して独自の社会を築こうとする中学生たちを描いています。
特に、彼らが国家を相手取って交渉するまでの過程が非常に興味深いです。
中学生リーダーの、「この国には何でもある。だが、希望だけがない」というセリフがずっしりと重く感じられます。どこか閉塞感のある現代にも通じる感覚ではないでしょうか。
近未来が舞台だからこそ、現代社会をどう生きればよいのかと考えさせられました。
『パプリカ』
『パプリカ』
筒井康隆(著)、中央公論社
人の夢に介入し、精神疾患を治療するサイコセラピー技術が発達した近未来が舞台。千葉敦子は、精神医学研究所に勤める研究者であり、他人の夢の中に入る「夢探偵パプリカ」だった。
あるとき、最新のPT機器「DCミニ」が何者かに盗まれてしまう。敦子は犯人からDCミニを奪い返そうとするが――。
筒井康隆氏のSF小説であり、アニメ映画も非常に好評だった作品です。
物語の鍵となる「DCミニ」は、人の見ている夢を外部からモニタリングしたり、録画・再生したりすることも可能な機械。精神科の治療に使われる機械ですが、他人の意識への介入もできるため、それを狙う組織との争いに発展していきます。
世界を混乱から救うため、夢と現実が交錯する世界で敦子が奮闘する姿は非常にスリリングです。
『忘られのリメメント』
『忘られのリメメント』
三雲岳斗(著)、早川書房
擬憶素子「MEM(メム)」を額に貼ると、他人の記憶を体験できる近未来。記憶を売っている「憶え手」の宵野深菜に、脱法MEMの調査依頼を受けていた。
そのMEMには、ある殺人鬼の模倣犯による犯行が記憶されているらしいのだが――。
脳科学の研究は進んでおり、すでに動物実験の段階では、作り出された記憶を植え込むことが可能だといいます。本作は、そんな記憶に関する物語です。
MEMによって殺人事件は解決に導かれるのか、MEMによる殺人の記録は人にどんな影響を与えるのか……。
スリルあり、ミステリー要素ありの展開が見どころです。
『虐殺器官』
『虐殺器官』
伊藤計劃(著)、早川書房
世界中に大きなショックを与えた「9.11」以降、各地で戦争やテロが発生し、サラエボが手製の核爆弾によって消滅した。
先進国は強大な武力でテロの脅威を一掃したものの、後進国では内戦や大量虐殺が急増していた。アメリカ大尉のクラヴィスは、その背景に存在すると噂される戦争犯罪人ジョン・ポールを追うが――。
「ベストSF2007」「ゼロ年代ベストSF」で第1位を獲得した作品であり、伊藤計劃氏のデビュー作でもあります。「虐殺」というタイトルに嫌悪感を持つ方がいるかもしれませんが、スプラッターな描写はほとんどありません。
物語の舞台は、現実と地続きのように感じられます。
あらゆることがIDで管理・記録される世界で、突然姿を消す人間。その人間が姿を現すのが内戦・虐殺の場所なのです。
なぜこのような世界が構築されているのか? クラヴィスがジョン・ポールを追跡していくとともに徐々に明らかになります。大量殺人を引き起こしているものの正体は、一体何なのでしょうか……。
『NO.6』
『NO.6』
あさのあつこ(著)、講談社
舞台は2013年。理想都市と呼ばれる「NO.6」で、2歳のときからエリートとして育てられてきた紫苑は、ある日矯正施設から抜け出してきたネズミという少年に出会う。
このことが治安局に知られたことで、紫苑の運命は激変。やがて破壊を切望するようになる――。
2003年から2009年にかけて、全9巻発売された『NO.6』。特別な待遇を受けてきた紫苑が、凶悪犯罪を犯したとされるネズミとともに、一見平和に見える都市「NO.6」の隠された裏側に迫っていきます。
多くの謎が渦巻く物語です。2人の出会いから都市の本質まで、一気に駆け抜けてください!
『未来職安』
『未来職安』
柞刈湯葉(著)、双葉社
物語の舞台は、人間の仕事がAIやロボットにとって替わられた近未来。人々は、仕事を持つ1パーセントの生産者と、ギリギリの生活が保障されている99パーセントの消費者に分かれている。
そんな、仕事をする必要がなくなった世界で、公共職業安定所(職安)には今日もさまざまな人が訪れていた――。
本書は、人々から仕事がほとんど消えてしまった近未来の職安の様子を描いた新しいお仕事小説です。労働をする必要がなくなった世界で、「働く」ことの意味を問います。
決して暗いお話ではありませんが、AIの発展は現実的にも起きていますし、将来人の仕事はロボットなどにとって替わられるといわれています。なんとなく想像できる未来がリアルです。
『めっしほうこう』
『めっしほうこう』
藤川伸治(著)、明石書店
舞台は2023年4月。残業定額制度「給特法」によって、時間外勤務手当が支給されない教師の労働環境は悪化していた。
なんとか教師の労働時間を抑制しようと、政府はAI先生を全国200の学校に試験的に導入しようとするが――。
教育関係者、子供を持つ親、そして子供にも読んでほしい一冊です。架空の人物が主人公ではありますが、リアルな教育現場の課題や、教師の窮地を知ることができます。
AIを先生に取り入れるメリットと、本当にAIが教育に有効なのかを、現実の法や教育現場の状況を交えながらストーリー形式で切り込んでいます。
AI先生という大きなキャッチはありますが、テーマは「教師の労働環境」。社会派小説としても存在感のある作品です。
『カザアナ』
『カザアナ』
森絵都(著)、朝日新聞出版
2020年の東京五輪から15年後。他国とのAI競争に負けた日本が、再起をかけて日本的観光革命に乗り出した。それからというもの国の規制は強くなり、ドローンに監視される社会となる。
あるとき、そんな息が詰まる社会で生きる入谷一家と、不思議な能力を持つ「カザアナ」が出会い――!?
850年前の平安時代に封じられた「カザアナ」と呼ばれる特殊能力者の力が、ある少女によって解放されます。それから彼女を取り巻く環境が彩られていく……という物語です。
本作で描かれる近未来の日本では、ボランティア活動や社会的地位などで増える参考ナンバーが全て。ナンバーによって住める地域や社会的待遇が変わってきます。
さらに、行動も完全に監視されています。
状況だけ説明すると監視されている恐怖を感じますが、そこで暮らす人たちにとってはそれが当たり前なのです。
しかしながら物語からは、「価値観は変わっていく」「平和的な解決は可能なのだ」というメッセージを感じました。
『新世界より』
『新世界より』
貴志祐介(著)、講談社
1000年後の日本。注連縄に囲まれた集落「神栖66町」で、外部から穢れが侵入することのないよう、子供たちは念動力(サイコキネシス)の技を磨いていた。
集落で暮らす12歳の早季と同級生たちは、夏季キャンプで自走型端末ミノシロモドキと出会う。そして、1000年前に文明が崩壊した理由を知ってしまい――。
第29回日本SF大賞受賞作品です。1000年後の未来ということで、近未来とは少し違いますがぜひ紹介させてください。
未来の物語なのに、念動力以外は明らかに現代社会よりも退行しているように見えますよね。
どのような経緯でこのような集落に変化していったのか? 子供たちが集落ではどのような立場に立たされているのか? 物語を読み進めていくと徐々に明らかになっていきます。
決して開けてはいけない箱を開けているかのような恐怖と高揚感に包まれます。新しい情報がどんどん入ってきて、一度読みだしたら止まらなくなるはずです。
読み応え抜群の小説ばかり!
近未来を舞台にした作品は、絶望的な展開になることが多いです。しかし、希望を信じて突き進む主人公たちに思わず感情移入してしまいます。
少し先の未来をイメージしながら、自分の生き方を今一度考え直してみませんか?
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