藤子・F・不二雄の短編集が凄い|後味の悪さを感じるおすすめ作品を紹介
更新日:2019/3/4
漫画家、藤子・F・不二雄さんと言えば、日本の代表的漫画家のひとり。特に『ドラえもん』や『パーマン』『キテレツ大百科』といった漫画は有名ですよね。
さて、そんな子ども向け作品のイメージが強い藤子・F・不二雄さんですが、大人向けのダークな作品も描かれています。
それが「SF短編集」。“すこし・ふしぎな”この作品は、短編ながら非常にメッセージ性が強く、中には精神的恐怖を感じるブラックな展開のものもあります。
ここでは、筆者が特に印象的だった6作品をご紹介しましょう。
もしも○○だったら……!? 別の角度から見えてくるものとは
まずご紹介するのは、価値観の違いによって生まれた2作品。
私たちが当たり前だ、常識だと思っているさまざまなこと。それらがもし違う世界だったら、こんなにも見方が変わってしまうのか!と驚かされました。
人と家畜の関係が……
「ミノタウロスの皿」
『藤子・F・不二雄 異色短編集1』収録
「ミノタウロスの皿」
宇宙船が故障してしまい、地球のような惑星不時着した主人公は、そこで偶然出会った少女・ミノアに助けてもらうことに。
地球によく似たこの「イノックス星」では、牛のような姿をしたズン類が世界を支配しているようだ。
ミノアたちは「ウス」と呼ばれ、ズン類に食用、愛玩用として飼育されていたのだった……。
人間と家畜の立場が逆転した世界が舞台。
人が牛や豚などの家畜を当たり前に食べている毎日のなか、それが逆だったら……と、考えさせられます。
藤子さんの鋭い視点を目の当たりにできる短編作品。最後に待っている結末もあまりに後味の悪いものです。
殺人が許される世界とは……
「気楽に殺ろうよ」
『藤子・F・不二雄 異色短編集2』収録
「気楽に殺ろうよ」
朝、新聞を取りに行こうすると原因不明の激痛が主人公を襲う。しばらくすると痛みは治まったが、なにやら周りの様子がおかしい。
そこはなんと、食欲と性欲に対する考えが逆転し、殺人が公認された世界だった。
主人公が迷い込んだのは、食事することと性に対することへの価値観が180度変わった世界。
食事するときはカーテンを閉めてひっそりと、ところが駅のホームでは男女が子作りを始めようとするなど、驚きの光景が広がっていました。
さてこの世界では殺人も容認されています。そこで主人公は気に入らない同僚を殺そうと決意するのですが……?
前半からは想像できない、ゾッとするラスト
続いておすすめしたい短編作品には、思わず「うわぁー……」と言ってしまうようなラストが待ち受けます。とても『ドラえもん』を描いている作者とは思えないブラックさです。
主人公たちはその後どうなってしまうのか? 想像するだけでゾッとします。
探しているものはなんなのか?
「ヒョンヒョロ」
『藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編4』収録
「ヒョンヒョロ」
うさぎちゃんがくれた手紙や、落ちてきたお星さまについて話すマーくん。ところがお母さんもお父さんも、そのことを信じてくれません。
しかしマーくんがもらった手紙には誘拐予告が。「“ヒョンヒョロ”を返さないと誘拐する」という内容に、一応警察に相談した両親でしたが、もちろん警察だって信じてくれません。
ついに姿を現したうさぎちゃんは、変わらずヒョンヒョロを要求し……。
最初だけ読むと、なんだか可愛らしいお話? なーんて思ったら大間違い! 子供の話をまともに信じようとしない大人の浅はかさや、身勝手さが浮き彫りになります。
そう、マーくんは、最初からお父さんお母さんに話していたのです。空から降ってきた“ヒョンヒョロ”のことを……。
自分では手を下さずに、チャンスを狙う
「コロリころげた木の根っ子」
『藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編1』収録
「コロリころげた木の根っ子」
新人編集者の西村は、結婚記念日に運悪く小説家・大和の原稿を受け取りに行くことになってしまう。
大和は、原稿が完成するまで西村を家にいるように言いつけます。しかし、どうも家の様子がおかしくて……。
外面は良くしている大和ですが、実際は酒とタバコが好きで、妻に対して理不尽に暴力をふるうことも。突然旅行に行こうと言うと、妻自身に愛人を呼びつけるよう電話をさせる始末です。
本当は妻を愛しており、そのことを妻もわかってくれている。そう言う大和。はたして妻の方は、大和をどう思っているのでしょうか?
未来を予想している!? リアルすぎる世界
後味の悪いラストをむかえる2作品をご紹介します。
少子高齢化、年金問題、殺人や愛情の薄弱と、決して漫画の中だけの問題ではないところが怖いです。10年後、20年後、本当にこんな世界になってしまうのではないか? と感じてしまいます。
これが本当の出来事になってしまわないようにしていかなければいけませんね。
人口爆発の裏で起こっていることとは……
「間引き」
『藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編1』収録
「間引き」
コインロッカーの管理人をしている主人公は、妻と二人暮らし。夫婦の愛情など、とうに感じられなくなっていた。
そんなある日、コインロッカーを訪れた1人の新聞記者。
赤ん坊をコインロッカーに捨てる事件について取材していた新聞記者は、事件が多発する理由について「人間の間引き」の仮説をたてるのだった。
人口爆発の問題に切り込んだ短編作品。
「人間の間引き」の話が終わったあと、主人公の前に保険屋の女性が現れます。その内容を聞いて勧誘を断った主人公ですが、そんな主人公を待ち受けていたのはとんでもない結末でした……。
愛情が薄れてきたから殺人が容易に起こる。コミュニケーションが希薄になりつつある現代への警告のようにも感じられました。
近い未来に起こり得るかも……
「定年退食」
『藤子・F・不二雄 異色短編集2』収録
「定年退食」
高齢者の人口増加による年金給付の問題、医療供給、さらに原因不明の汚染地域の拡大による食糧不足と、問題が山積みになってしまった政府。
とうとう「一定年齢以上の高齢者に対する食糧配給と医療支援の打ち切り」を定めた法案を可決してしまいます。
支援打切りの対象になった主人公は、同じ境遇の老人と出会い……。
「本当にあり得るかも……」と思わずにはいられないのがこの「定年退食」。自分が定年を迎え、社会的な保証が一切なかったとしたら、と考えるだけで恐ろしいです。
一見この物語は、主人公の老人2人が可哀想だと思えるかもしれません。しかし考えてみてください、この作品に登場するすべての人が、いずれは老人になるのだということを……。
1度は読むべき名作
このSF短編が描かれたのが1970年ごろ。しかし、とても45年以上も前の作品とは思えません。
これまでになかった着眼点、まるで未来を見てきたかのようなリアリティのあるストーリー、短いながらもどの作品も印象深く、読めば読むほど藤子・F・不二雄さんのすごさを感じます。
「間引き」や「気楽に殺ろうよ」以外にも考えさせられる作品が多く、大人にこそ読んでもらいたい内容ですね。
藤子・F・不二雄さんの漫画を実際に読んだことがない人も、もちろんファンの人も、ぜひ1度読んでみてください!
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