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漫画の元祖は江戸時代にあった!『人魚なめ』『芋地獄』山東京伝の傑作を読む


漫画の元祖は江戸時代にあった!『人魚なめ』『芋地獄』山東京伝の傑作を読む

 

こんにちは、文学が大好きなアオノです。

江戸時代に、現代の漫画の元祖である「黄表紙」という、風刺のきいた、ちょっと大人向けの読み物がありました。

その「黄表紙」が、現代語で超訳されてコミックになっているんです!今回ご紹介するのはこの2作。

1.人魚を舐める『人魚なめ』(人魚はどうも魚臭い…?)
2.「芋」が地獄に落ちる『芋地獄』(胸やけさせた罪で地獄に堕ちた「さつま芋」の運命は?!)

それがとにかくぶっ飛んでまして……とりあえずこちらの表紙画像をご覧ください。

ドン!

『江戸漫画(2)人魚なめ』の表紙

 

どうですか……絵面のインパクト強すぎません?しかもなんだこの状況……!って感じですよ。「ツンデレ」って書いてあるし、人魚というより、むしろ魚なのでは?!

江戸時代に、クールジャパンも真っ青な最高にクールなお話が登場してたんです!

それじゃあいってみましょう。「人魚なめ」の謎ストーリーにごあんな~い!

 

人魚をなめる『人魚なめ』

江戸漫画(2)人魚なめ
棚橋正博(監修)、小学館
山東京伝『箱入娘面屋人魚』原作、北尾重政(原画)

 

竜宮城で乙姫様と結婚した浦島太郎。しかし浮気相手の鯛との間に人魚が生まれた!

天王洲に捨てられた人魚はやがて成長し、平次という沖釣りの男に釣られ、ふたりはめでたく夫婦に。貧乏な平次と人魚の夫婦、人魚は金を稼ごうと遊女になったり、人魚なめの商売を始める。

拍子に合わせてなめんましょ、拍子に合わせてなめんましょ、なめるというのは初会の盆、亭主の留守に女房と浮気、バクチのごまかし、水飴、醤油、金山寺、ごま味噌、ゆず味噌、砂糖味噌。ハア拍子に合わせてなめんましょ。ドコツクドコツクスコドコドンドン、ハイ次の方~(『人魚なめ』より)

強欲な俗物たちが、われ先にと人魚をなめにきた。太鼓の拍子にあわせて、人魚をなめさせる。

そもそも「人魚をなめさせる」ってどんな商売?!

 

人魚をなめさせる商売

小判

 

貧乏な平次と人魚の夫婦。

「人魚をなめた者は千年生きる」という言い伝えを使って「人魚をなめさせる」商売で金儲けを始めます。

ひとなめなんと金一両一分! 江戸時代なら、長屋に住む家族4人が一か月暮らせたほどの値段だそうです。高いですね、ひとなめですよ!いつの時代にもこういう商売あるんですねぇ。不老不死を求めたお客が殺到します。

しかしこの人魚、とても「魚臭い」んですね。魚臭いって、ちょっと待ってよ、人魚への憧れが崩れるじゃない!

人魚は金を稼ぐために、遊女になるんですが、魚臭くて客が逃げます。

ごまかすけれど、ごまかしてもごまかしきれないのが、あの魚臭さ!(『人魚なめ』より)

思わず字もおっきくなりますよ。
でもこの人魚、実はツンデレで、平次のために金を稼ぎたいと悪戦苦闘する姿がじれったくて、読んでいくと、なんだかかわいいって思えてきちゃうんですよねぇ。
首から下、ただの魚ですけどね!

たちまち平次と人魚は、暮らしに不自由がないほど大金持ちになる……のですが、このお話、ただでは終わりません。
なんと、人魚をなめすぎた平次に身に大変なことが起こるのです!

さて、平次と人魚の奇妙な夫婦、めでたしめでたし、と終われるでしょうか?!

浦島太郎が、物語の主人公の特権か、颯爽と登場するシーンも見物です!

 

表紙になっている絵は、まさに人魚をなめさせているシーン。

うーん……やっぱり絵面からしてもシュールですなぁ。

 

「芋」が地獄に落ちる『芋地獄』

江戸漫画(1)芋地獄

江戸漫画(1)芋地獄
アダムカバット(監修)、小学館
山東京伝『一百三升芋地獄』原作・原画

 

『芋地獄』は、この世にあると言われている百三十六の地獄にも入れてもらえない地獄のこと。
芋地獄なので、地獄に落ちるのはもちろん芋。あのおいしいお芋のことです。お芋がゆるキャラみたいなシュールなデザインで地獄に落とされるんです。

 

地獄の堕ち方がかわいそう

焼き芋

たとえば山芋は、こんな理由で地獄に堕ちます。タコの閻魔大王が言うには……

おい、そこの山芋!おまえは娑婆にいた時、精進物の身であるのに鰻の蒲焼風に料理され、和尚に食されて精力をつけさせたとがにより、地獄に堕ちたのだ!(『芋地獄』より)

食べたの和尚さんなのにね。なんとかわいそうな山芋。

ちなみに、さつま芋は「江戸の人たちを胸やけさせた罪」で地獄に落とされました。

それにしても、おいしく食べた人間の方は責められず、芋が責められるなんて、なんて哀れなお芋さんなんでしょう。

 

地獄での責め苦も芋ならでは。

唐の芋は「釜茹で地獄」でぐつぐつ煮られる。つくね芋は「とろろ地獄」ですりおろされる。里芋は「火の車」ならぬ「屁の車」という臭い車に乗せられるなど、芋の特性にあった責め苦が待っています。

「芋地獄」は芋にちなんだダジャレや、浄瑠璃のパロディも満載。

ページの欄外に解説が書いているので、ダジャレに気づけなくても大丈夫!解説を読むと、あとからじわじわと笑いがこみあげてきますよ。

この時代のひとって、ダジャレ大好きだったんですねぇ。

 

江戸時代にもゆるキャラブームがあった?!

顔が描いてあるジャガイモ

愛嬌のある顔をした芋たちは、ちょっとした脱力系で、みうらじゅんさんも帯で書いてるんですが、まさにゆるキャラ。地獄なのに、いろんな芋がいて、ユーモアがあって愛らしいんですよね。しかもこれ、今でいう芋の「擬人化」ですよね。

時代ってめぐるのでしょうかね?! 現代に通じるゆるキャラブームと擬人化ブームが、江戸時代にもあったのかも……と思うとなんだか胸が熱くなりますね……!

しかしこの芋地獄も、本物の地獄のパロディみたいなもの。本物の閻魔大王が黙っているとは思えませんよね。

さて芋地獄、どうなるか?!クスッと笑えるゆるキャラ地獄パロディ「芋地獄」の運命やいかに!

 

漫画の元祖を読んでみよう!

今回ご紹介した物語は意訳されていますが、絵は当時のままで、原文のおもしろさも存分に生かされている漫画です。

ぜひ江戸時代に大流行した最高にクールな大人向けの漫画の元祖、読んでみてくださいね!

 


本日ご紹介した漫画

『人魚なめ』の表紙

『人魚なめ(江戸漫画 2)』、棚橋正博(監修)、小学館
『人魚なめ』『人魂旅行』『色地獄』の3話を収録。

『芋地獄 (江戸漫画 1)』

『芋地獄 (江戸漫画 1)』、アダムカバット(監修)、小学館
『芋地獄』『妖怪図鑑』『こびと漫遊記』『化け物の嫁入り』の4話を収録。