小川未明のおすすめ童話|日本のアンデルセンを読む
更新日:2018/4/6
「日本のアンデルセン」「児童文学の父」と呼ばれた童話作家・小川未明を知っていますか?
明治時代に生きた童話作家で、温かみのあるやさしい言葉で書かれた、美しく幻想的な童話の世界は、今も多くの人に愛され続けています。
小川未明の作品には、月や星、電車のレールやお菓子の包み紙など、無機質なものがしゃべり出すお話がたくさんあります。読後の余韻をそのまま抱いて眠りたいような、やさしく美しい童話は、誰にもまねのできない世界です。
一方で、幻想的な童話の中に「人間の本質」がたくさん隠されていることに気づき、ドキッとさせられることでしょう。だからこそ今、大人に読んでもらいたい童話が小川未明作品なのです。
今回は、わたしが特におすすめしたい3編をピックアップしました。
小川未明が描くやさしく美しい童話の世界を覗いてみてください。
人間の愚かさを描く美しい童話
赤い蝋燭と人魚
『赤い蝋燭と人魚』
酒井駒子(絵)、偕成社
人魚の娘とろうそく屋の老夫婦と、その町が辿った哀しい運命を描いた切ない童話。
北の暗い海に棲んでいた人魚は、人間の優しさに希望を抱き、神社に自分の子どもを産み落としました。町のろうそく屋の老夫婦に拾われた人魚は美しい娘に成長します。
娘が絵を描いたろうそくは、海の災難から船を守るとたちまち評判になりますが、老夫婦は香具師にそそのかされ、法外な金で娘を香具師に売り渡してしまい……。
金に目がくらんだ人間の残酷さが克明に描かれた本作。大人が読むと、登場する人間たちの残酷な姿に、はっとするかもしれません。そして、自分はこんな人間になってはいないかと、振り返るきっかけにもなるでしょう。
人魚の娘を大切に育てていた老夫婦や、ろうそくの恩恵を受ける人々が、人魚の娘に思いやりを持たず、手のひらをかえしていく姿には、胸がしめつけられるような哀しみがあります。
童話の中に現実の残酷さが入り混じる世界観は、ゾッとするほど美しいのです。
わたしは本屋で、酒井駒子さんが絵を描いている『赤い蝋燭と人魚』の絵本の表紙にひとめぼれをして、はじめて小川未明の童話を読みました。
美しく恐ろしい童話として今もファンの多い作品で、わたしも小川未明の作品の中で一番好きなのが本作です。
欲深く愚かな人間の行く末はどうなるのか……。ぜひ一度は読んでいただきたい人魚の物語です。
月夜の晩の不思議な出会い
月夜とめがね
『月夜とめがね』
高橋和枝(絵)、 あすなろ書房
月夜の晩におばあさんに訪れる不思議な出会いを描いた童話。
ある月のきれいな晩、針仕事をしていたおばあさんの家に、眼鏡売りが訪ねてきます。おばあさんが買った眼鏡は何でもよく見えました。
そこへ、指を怪我したという美しい少女が訪ねてきます。怪我を見てあげようと、眼鏡をかけたおばあさんに見えたものとは……。
最初から最後まで、夢を見ているような幻想的な雰囲気に包まれた物語です。静かな月夜に、やさしいおばあさんのあたたかさと、ゆったりとした時間が流れています。
ふしぎな眼鏡売りと、かわいらしい少女。月夜の晩におとずれたふたりのお客さんは、いったい何者なのでしょうか。次々と登場するふしぎな訪問者に、ドキドキと胸がときめくお話です。
読後の余韻のやさしさは、小川未明のおはなしの中でも、いちばんなのではないでしょうか。
やさしい気持ちのまま、ゆっくり眠りたい時におすすめの1作です。
いったい誰がわるかったの?
負傷した線路と月
『負傷した線路と月』
古志野実(絵)、架空社
線路のレールや月がおしゃべりをするファンタジックな童話。
ある日、人や荷物をたくさん乗せた機関車が通ったせいで、線路のレールが傷ついてしまいます。月は、レールを傷付けた機関車をたしなめるため、機関車を探しますが……。
傷ついたレールの訴えを聞き、お月様が機関車を探しにいくこのお話。レールが傷ついたのは何が原因か、誰が悪いのか、とお月様がさぐっていくのです。
傷ついて痛い痛いと泣くレールを、花も、風も、雨も、月も、みんなで慰めます。それでは機関車が悪いのでしょうか? 傷ついてしまったレールはかわいそうですが、機関車は無傷だったのか……ということをみんなは知りません。
ものごとには、かならず原因があります。しかし、目に見えているものがすべてではない、ということ。たくさんの視点からものごとを考えるようにと教えてくれるようなお話です。
こちらも、とても心が温かくなる終わり方に、心が洗われます。
日本のアンデルセン、小川未明を読もう
世界にグリムやアンデルセンといった素晴らしい童話があるように、日本にも素晴らしい童話作家・ 小川未明 の作品がたくさん残っています。
ぜひ一度、読んでみてくださいね。