日本の古典ミステリーの名作、傑作といえばこの小説!
更新日:2019/6/6
物語の中で起こる事件や犯罪の謎を解き明かしていく、ミステリー小説。秀逸な伏線の回収や、犯人が分かる瞬間の爽快感はたまりません。
また、難解な事件や複雑なトリックを読み解き、自分なりに推理をする醍醐味もあります。
「軽いタッチのミステリーもいいけれど、ときには重厚感のあるミステリーが読みたい!」
そんなときは、長年にわたって読まれ続けている名作がおすすめです。
ここでは、時代を超えて読まれ続けている日本の古典ミステリーをご紹介します。
鉄壁のアリバイは崩せるのか?
『点と線』
『点と線』
松本清張(著)、新潮社ほか
海岸で寄り添う死体が発見され、警察は心中事件と処理しようとする。しかし福岡のベテラン刑事と東京の新米刑事には腑に落ちない点が。そして疑わしい人物には、絶対に崩せない鉄壁のアリバイがあって……。
古典ミステリーといえば松本清張を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
松本清張の作品は重厚感漂うことから、堅苦しい感じに思うかもしれません。しかし、実際には滑らかに流れるような文章で、非常に読みやすいです。
作品としての完成度はもちろんですが、とても筆力のある方なのだということを実感します。
松本清張には『砂の器』『黒革の手帳』『ゼロの焦点』などの名作が多数あります! 読んだことがなければチャレンジしてみてくださいね。
有名なあのシーン、原作小説では……?
『犬神家の一族』
『犬神家の一族』
横溝正史(著)、角川グループパブリッシングほか
ちょっとおどろおどろしい独特の雰囲気が特徴の、横溝正史氏の作品。『犬神家の一族』というタイトルは、誰もが一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
何度も映像化された作品であり、いまだに人気の高い作品です。
本筋のミステリー要素が秀逸なのに加えて、太平洋戦争直後を舞台にしているだけあって、復員など社会問題も取り入れられています。
歴史的な背景まで描いているからこそ、この重厚感を感じ取れるのだと思いました。
探偵の金田一耕助が、血で血を洗うような犬神家に渦巻く思惑をどう解き明かすのかも見どころです。
湖から足が突き出たあの有名なシーンは、原作ではどうなっているのか? ぜひ確認してみてくださいね。
残酷すぎる人形劇
『人形はなぜ殺される』
『人形はなぜ殺される』
高木彬光(著)、光文社
ミステリーファンの支持率が高い高木彬光氏の作品は、本格派ミステリーの名に負けない完成度の高さが魅力です。
中でも『人形はなぜ殺される』は、高木氏が自信を持って送り出した1冊で、本格的な犯人当てを楽しむことができます。
作品の題名が疑問形になっているように、高木氏が読者へ挑戦状を送ったような作品ともいえます。それだけに、一度読んだだけでは犯人当て、トリックの解明は難しいでしょう。
人形・マジックショーなど、ちょっと怪しくオドロオドロしい雰囲気が漂い緊張感もあります。古典作品ならではのこの雰囲気、好きな方にはたまらないはず!
昭和32年の作品とは思えないほど、現代でも十分通用する作品だと思います。被害者と同様に人形が殺されていく理由に、あなたは途中で気づくことができるでしょうか?
死刑囚の独白と事件の接点とは
『血の季節』
『血の季節』
小泉喜美子(著)、宝島社
昭和50年代に青山墓地で起きた、幼女惨殺事件。
弁護士から依頼を受けた精神科医が、事件の犯人である死刑囚の元に訪れると、死刑囚は自分の生い立ちを語り出した。はたしてその回想と事件との接点とは……。
幼女惨殺事件をキーに、犯人の回想とその事件を捜査する警察の視点が交互に綴られています。
一見、正統派ミステリーのようですが、この作品のもうひとつの魅力がホラー要素。
全く別の視点で進んでいく物語の中で、「ミステリー」と「ホラー」はどのような化学反応を起こしてくれるのでしょうか。
特殊な設定の物語が読者を惹きつける独創的な作品です。
増悪溢れる人間模様
『不連続殺人事件』
『不連続殺人事件』
坂口安吾(著)、角川書店ほか
戦後の夏、歌川多門の息子である一馬の招待で、小説家や詩人、女優、芸術家など、さまざまな職業の男女が豪邸を訪れていた。そんな多門邸で、8つの殺人事件が発生してしまう。
誰が殺人を犯したのか? 殺人犯の意図とは――?
登場人物が多く、愛憎にまみれた人間関係が複雑なのですが、張り巡らせた伏線がとにかく秀逸です。小さな突破口から明かされていく事実には、思わず唸ってしまうはず!
個性の強い登場人物たちは誰もが怪しく感じられ、それがまた良いカモフラージュとなっています。
作品が発表された当初は、真犯人を当てた読者に原稿料をプレゼントするという懸賞金もかけられた珍しいエピソードを持つ作品です。
家族を守るために起こる悲劇とは……
『Wの悲劇』
『Wの悲劇』
夏樹静子(著)、光文社ほか
女子大生の摩子は、大伯父である和辻薬品会長の与兵衛に肉体関係を迫られ殺してしまう。和辻家の名を汚さぬため、愛する摩子を守るため、一家は外部の犯行に仕立てようと偽装工作をするのだが……。
国内ミステリーの女性作家の代表的な人物の一人は夏樹静子氏でしょう。『Wの悲劇』は夏樹氏の名声を高めた大人気作品です。
1984年に角川映画で映像化され、薬師丸ひろ子さんが主演したことでも有名です。第27回ブルーリボン賞では、この作品で主演女優賞を獲得しました。
スピード感があり、スラスラとよめてしまう1冊。最後にはまさかの展開が待ち受けていますよ。
映像を見たことのある方も多いかもしれませんが、改めて小説を読むときっと新しい驚きがあると思います。設定にも違いがあるので、ぜひ原作をチェックしてみてください!
消えた女はどこへ……
『蒸発 ある愛の終わり』
『蒸発 ある愛の終わり』
夏樹静子(著)、光文社ほか
札幌行きの飛行機から、1人の女性が消えた――!?
人妻の美那子と不倫関係にあった新聞記者の冬木は、失踪した美那子の行方を探すべく、彼女の故郷である福岡に向かう。
なぜ、美那子は密室であるはずの飛行機の中から消えてしまったのか?
美那子と関係のある人物を探していくうちに、冬木は新たな殺人事件や失踪事件に遭遇することになります。
複雑な人間模様が謎解きを混乱させるのに一役買っていますが、男女の愛憎が叙情的に描かれた作品です。巧妙なトリックも随所に登場し、ミステリーの醍醐味がふんだんに盛り込まれていますよ。
アリバイ崩しの名作
『黒いトランク』
『黒いトランク』
鮎川哲也(著)、東京創元社ほか
終戦直後の汐留駅で発見されたのは、腐乱死体の入ったトランク。送り主を警察が突き止めたものの、その人物は溺死体で発見されるのだった。
これで事件は解決したと思われたが、鬼貫警部はかつての想い人からの依頼で九州へ向かっていた。そして、鬼貫の前に青ずくめの男が現れ……。
「理論的にアリバイを崩す」そんな作品をお探しであれば、絶対に読んでほしい作品です。
地道に事件を捜査する鬼貫警部によって徐々に明かされるトリックは、綿密に計算されています。とにかく隙がありません。
やや複雑ではありますが、トリックが解明されるたびにパズルのピースを見つけたときのような喜びを覚えるはず……!
派手な演出があるわけではありませんが、重厚で読み応えも抜群です。
どんなに完璧でも穴はある
『心理試験』
『心理試験』
江戸川乱歩(著)、春陽堂書店ほか
貧乏な大学生の蕗屋清一郎は親友の斎藤勇から、下宿の管理をする老婆が大金を貯めていることを聞く。
老婆を殺し大金を得ようと考えた清一郎は、半年の間綿密に計画を立て、そして実行する……。
国内の古典ミステリーを代表する巨匠の一人、江戸川乱歩の「探偵明智小五郎シリーズ」の1作です。
江戸川乱歩というと、奇妙で狂気じみた事件や犯人が印象的ですが、この作品はやや落ち着いた雰囲気。
犯人目線で事件が描かれるため、犯人当ての作品ではありません。清一郎の「心理試験」を絡めて綿密に構築した犯行計画を、明智小五郎がどう見抜くのかが見どころです!
淫靡で官能的
『陰獣』
『陰獣』
江戸川乱歩(著)、春陽堂書店ほか
ある日人妻の静子は、以前恋仲であった探偵小説家の大江春泥から脅迫を受けていることを、同じく探偵小説家の寒川に相談。
するとその後、「復讐する」と綴られた手紙が静子の元に届く。そしてとうとう静子の夫である六郎が死体で発見されてしまい……。
登場人物たちの異常とも言える性癖や不可解さが、なんともいえぬ後味の悪さを残す『陰獣』。
なんと作中に登場する大江春泥のモデルは、乱歩自身! きっとこの作品を楽しんで書いていたのだろうと想像できますね。
乱歩独特のねっとりとした生々しい描写を楽しめる本作。読者を作品の中に惹きこむ、乱歩のテクニックを感じられると思います。
時代背景なども味わいながら読んでみて
クラシックなミステリー作品は、発表当時の雰囲気が味わえるのも魅力!
犯人・トリック・動機当てを楽しみながら、しばらく時間旅行に出かけてみませんか? 原作と映像作品の違いを見比べるのも楽しいですよ。
「古典」ミステリーだからこそ良さがある! 読めば度肝を抜かれる良作あり。