異様な世界が魅力。江戸川乱歩の「奇妙なお話」5選
皆さんが「江戸川乱歩」と聞いて思い浮かべるのは、かの有名な探偵・明智小五郎でしょうか? それとも、子ども時代に学校図書で手にした少年探偵団?
ここでご紹介するのは、明智探偵や少年探偵団の話ではありません。独特な語り口が特徴的だったり、異様な世界観が展開したりする、ひと味違う魅力に溢れた奇妙な作品。
あなたも乱歩の不思議な世界に足を踏み入れてみませんか?
とある椅子職人の懺悔
『人間椅子』
『人間椅子』
角川書店ほか
乱歩の奇妙な作品の中でもよく知られているのが『人間椅子』。
ある女流作家のもとに届いた1通の手紙。ファンレターだと思われた手紙は、読み進めていくにつれて、驚愕の事実を告白したものであると明らかになっていき……。
こちらは短編でありながら、乱歩の筆力の高さを体感できる作品です。
乱歩の作品には、ときとして普通では考えられないような人物が登場します。こちらの『人間椅子』の場合も然り。あまりにも意外すぎる展開に誰もが驚愕してしまうことでしょう。
『人間椅子』は、乱歩の不思議な世界をまだ体験していない人へ、最初の一作目としておすすめしたい作品です。
「悪意」とはなんなのか?
『赤い部屋』
「江戸川乱歩全集 第1巻」より『赤い部屋』
光文社
『赤い部屋』では、「T」という話し手によって不思議な体験が告白されていきます。淡々と語られていく「T」の語る体験に背筋がゾクゾク……。
物語の結末に拍子抜けする方もいるかもしれませんが、そこには乱歩らしさが滲み出ています。
作品を読んでいると、登場人物の行動の一つひとつに、鋭い心理描写が隠されているのが感じられます。
乱歩といえば「探偵・明智小五郎」の印象が強いですが、一方で犯罪者側の描き方も素晴らしく、それが独特な世界を生み出すことにつながっているようです。
想像を超える展開に衝撃を受ける
『孤島の鬼』
『孤島の鬼』
角川書店ほか
恋人の命を何者かによって奪われ、復讐を心に決める主人公。容疑者の一人として思い浮かんだのが、自分に友情以上の気持ちを抱いていると思われる男だった。しかしそのあと第二の殺人事件が起き……。
読み進めていくうちに、実は単純なミステリーではないことが明らかになっていきます。
物語の舞台は途中から謎の孤島へと変わり、そこで想像もできないストーリーを展開していきます。
『孤島の鬼』はエンターテインメント要素も多く、映像化やコミカライズもされていることから、知名度の高い作品の一つです。
読まないと後悔する……!
『パノラマ島奇談』
『パノラマ島奇談』
春陽堂書店ほか
『パノラマ島奇談』は、『孤島の鬼』と同様に奇妙な島が舞台の作品です。主人公や舞台の設定が奇妙なだけでなく、ストーリーそのものがまさに奇想天外!
犯罪を計画し、実行していく者の視点からストーリーが語られているのが特徴です。
また、主人公は頭が良く日常生活に退屈している、といった設定において、乱歩の『赤い部屋』などの登場人物に共通点を見出すことができるでしょう。
風景描写や心理描写が非常に魅力的な作品です。主人公が計画を練り、実際に実行していく際の心理描写には圧倒されてしまいます。
また、パノラマ島の詳細にわたる描写は、まるで映像を見ているかのような錯覚を覚えてしまうほど。乱歩の筆力のすごさには驚くばかりです。
ノスタルジーな世界観に浸れる一冊
『押絵と旅する男』
「江戸川乱歩全集 第5巻」より『押絵と旅する男』
光文社
これまで紹介してきた作品は、乱歩の異様な世界が魅力の作品の中でも、恐怖感を覚えさせられるものばかりでした。
しかし、最後に紹介する作品は、主人公の設定や背景なども異なっています。
こちらは犯罪とは無関係。むしろ、ファンタジータッチといえる作品で、押絵の中に入ってしまった兄と一緒に旅をしている男の話です。
旅人の兄は、ある押絵の中の女性に恋をしてしまいます。悩んだ結果、不思議な方法で絵の中に入ってしまうのですが、年月が流れるにつれて、絵の中の女性は少しずつ歳を取っていき……。
独特なタッチで描かれ、不思議なストーリー展開ではありながら、ほのぼのとした気分になれる感動の短編。この作品に触れたら、乱歩の新たな魅力が見えてくるに違いありません。
江戸川乱歩のディープな世界へ!
乱歩氏の奇妙な世界を体感するなら、『鏡地獄』『日記帳』『双生児』『白昼夢』『芋虫』などの作品もおすすめです。
明智小五郎シリーズの『屋根裏の散歩者』もお忘れなく!
ご紹介した「江戸川乱歩」の書籍
『人間椅子』角川書店ほか
「江戸川乱歩全集 第1巻」光文社より『赤い部屋』
『孤島の鬼』角川書店ほか
『パノラマ島奇談』春陽堂書店ほか
「江戸川乱歩全集 第5巻」より『押絵と旅する男』、光文社
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