マイナースポーツをテーマにした小説|スポーツ観戦が楽しくなる!
更新日:2017/9/14
手に汗握る、アツい小説といえば「スポーツ小説」。
スポーツを題材にした小説ということで、「スポーツ小説=大のスポーツ好きが読むもの(たとえば、野球好きの人が野球小説を読む)」と思っている方もいるのではないでしょうか?
私はそう思っていた一人ですが、いくつかのスポーツ小説を読んだ後、それは大きな誤解だったと気づきました。
スポーツ小説を読んでから、スポーツ観戦をすると、何倍もスポーツが面白くなるのです。
画面だけでは知り得ない、選手たちの地道な取り組み、人情の機微、細かな動きなど、未経験者なりにも視点が広がるんですね。
今回のテーマは「マイナースポーツをテーマにした小説」。
読書を通じ、新たなスポーツの知識が身につくのはとても楽しいものです。
読み終わった頃には、各スポーツを身近に感じているはずですよ。
プロレスのためにメキシコに渡った父
『マスク』
堂場瞬一(著)、集英社
スポーツジャーナリストの水野は、家族を捨てたプロレスラーの父が死んだと聞き、メキシコの街セントロへ向かう。太陽のように崇められた人気仮面レスラー“エル・ソル”とは、どんな男だったのか。プロレスが唯一の娯楽という貧しい街で、孤児達をかわいがったという父。なぜ、彼は私を捨てたのか―。街で暮らしながら、関係者の証言を集めていく水野が知った父の実像とは…。熱血青春小説。(表紙裏)
警察小説の第一人者であり、スポーツ小説の第一人者でもある、堂場瞬一さんの作品。
スポーツ小説=学生の青春モノという王道パターンに反して、大人が読んで面白い、ハードボイルドなスポーツ小説というのが特徴です。
本書で描かれているのは、ルチャ・リブレという、メキシカンスタイルのプロレス。主人公の父が、家族を捨ててまで、この競技の何に惹かれたのか……深い余韻が残る一冊です。
世界記録を超える片足の競歩選手がいた
『19分25秒』
引間徹(著)、集英社
一周5キロのコースを片足に義足を付けロボットのごとく正確に、しかも驚くべき速さで歩く男。今の彼はオリンピック記録をも上回っているのだ。主人公はそんな彼に惹かれこのコースを19分25秒で競歩しようと挑戦を始める。このタイムこそは世界記録なのだ。第17回すばる文学賞受賞作品。他に早稲田文学新人賞受賞作品「テレフォン・バランス」など併収。 (表紙裏)
第17回すばる文学賞受賞作品。
主人公が見た、5kmの距離を19分25秒で歩く片足の競歩選手。彼は、オリンピックで金メダルが取れると陸上連盟委員からお墨付きをもらっていても、「国のために歩くのはごめんだ」と、競歩大会には決して出場しない男でした……。
「この国の連中はロボットばかりだ。俺は左足はロボットだが、心までロボットじゃない」など、男の言葉には胸が熱くなります。
未知の世界のロードレース!
『サクリファイス』
近藤史恵(著)、新潮社
ぼくに与えられた使命、それは勝利のためにエースに尽くすこと――。陸上選手から自転車競技に転じた白石誓は、プロのロードレースチームに所属し、各地を転戦していた。そしてヨーロッパ遠征中、悲劇に遭遇する。アシストとしてのプライド、ライバルたちとの駆け引き。かつての恋人との再会、胸に刻印された死。青春小説とサスペンスが奇跡的な融合を遂げた! 大藪春彦賞受賞作。(表紙裏)
幅広いジャンルのミステリーを描く近藤史恵さんの、スポーツミステリー。スポーツをテーマにしているにもかかわらず、ハードボイルドな小説に与えられる大藪春彦賞を受賞した作品です。
主人公の白石誓は、トップであることに強いプレッシャーを感じるがゆえに、ロードレーサーの「アシスト」に転向します。そして見えてきたものは……?
臨場感あふれる表現には圧倒されます。シリーズ化されているので、ぜひ続けて読んでみてくださいね。
青春! カーリング物語
『青森ドロップキッカーズ』
森沢明夫(著)、小学館
いじめられっ子の中学生・宏海、中途半端な不良で同級生の雄大、そしてプレッシャーに弱い柚果と楽天的な陽香のアスリート姉妹。何をやってもうまくいかない彼等を結びつけたのはカーリングだった。天才的アイスリンク作りの老人とバツイチの助手・桃子の応援を背に受けて一歩ずつ新たな人生を歩んでいく…。「四枚揃わなければ、四つ葉のクローバーにはならないのだ。自分だけが逃げ出すわけにはいかない」青森を舞台に、見た目もキャラもバラバラな凸凹チームが巻き起こす、爽快でしみじみ泣ける青春カーリング小説。(文庫表紙裏)
カーリングの街として広く知られている青森を舞台にした青春小説。
主人公がカーリングの初心者という設定なので、カーリングの基本ルールも書かれています。作中に出てくる「カーリングの精神」には思わず感心してしまいました。
帯には【この本で流した涙は、100%美しい!】というフレーズが描かれていますが、とにかく泣けて、清々しい気持ちになれる作品です。
なお、作者の森沢明夫さんは、青森県に魅了され『青森三部作』として他の作品も出されています。3冊とも繋がりがあるので、興味のある方はぜひ読んでみてくださいね。
トライアスロンで成長していく中学生の青春!
『空をつかむまで』
関口尚(著)、集英社
膝の故障で得意のサッカーを諦めた優太は、廃校が決まった田舎の中学に通う3年生。無理やり入部させられた水泳部には、姫と呼ばれる県の記録保持者と、泳げないデブのモー次郎しかいない。3人は、なくなってしまう美里中学の名前を残すため、大切な人のため、優勝すべくトライアスロン大会に挑む。市町村合併を背景にまばゆい青春の葛藤と疾走を描いた少年少女小説。第22回坪田譲治文学賞受賞作。(表紙裏)
『パコと魔法の絵本』で知られる関口尚さんの作品。トライアスロンを通じて、成長をしていく中学生の青春を描いています。
この作品、登場人物たちが抱えている闇が想像以上に深い。そのため、読んでいるうちについ応援したくなるのです。彼・彼女たちがどうか救われますように、と。
人生、努力しても実らないことはたくさんあります。でも、何かに向かって取り組んだ先に、見えてくるものもある。一筋の光を感じる1冊です。
小説とともにマイナースポーツを楽しんで
どの作品も読後感は良いものばかりです。ぜひ小説片手にスポーツを楽しんでみてはいかがでしょう。