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太宰治『駈込み訴え』|太宰が描いた男と男の愛憎劇


更新日:2018/2/1

みなさんは、太宰治といえばどんなイメージがありますか?
『人間失格』のように、ちょっと暗い、難しいお話を書くひと、というイメージが強いかもしれません。

実は太宰の小説で「男と男の愛憎劇」を描いた小説があるのをご存知ですか?
男女の愛憎劇といえば、そう珍しくはないですが、男同士の愛憎劇ってなかなかないのではいないでしょうか。

また、この小説は「口述筆記」で書かれた小説、つまり「太宰がしゃべったことを書き取らせた小説」なんです。

今回は、そんな異色の小説『駈込み訴え』をご紹介します。

 

お酒を飲みながら口述した作品

『駈込み訴え』は、太宰が口頭でしゃべったことを、妻の美知子さんが書きとった小説です。

『駈込み訴え』を口述筆記をした美知子さんによると、太宰は「盃を含みながら全文、蚕が糸を吐くように口述し、淀みもなく、言い直しもなかった」そうです。
そして美知子さんはそんな太宰に「畏れを感じた」とも話していたとか。

口述、というだけもすごいのに、まさかお酒を飲みながら!しかも、言い直しもせず、ということは、今でいえば生放送で、即興の小説を喋るみたいなイメージでしょうかね。その才能が恐ろしいですね。

太宰の口から出た言葉がそのまま文字になったこの小説、どういうお話なのでしょうか?

 

『駈込み訴え』のあらすじ

「申し上げます。申し上げます。旦那さま。」で始まるある男の訴え。

男は駈込んでいって、自分の師である「あの人」が、どれだけ酷く傲慢な男であるか、自分が彼にどんなことをしてやったのか、どうして今に至ったのかを、まくしたてるように訴えていく。愛するほど憎らしい。愛憎の物語。

 

愛と憎しみが混在する『駈込み訴え』

タイトルにも書いた通り、この物語は「男と男の愛憎劇」です。相手の男を、殺したくなるほど愛してしまった哀れな男の物語なんです。
あなたは、人生が狂うほどに誰かを愛したことがありますか?

主人公の男は、善良な商人です。わたしたちと同じ、普通の人。
しかしそんな商人が、出会ってしまったひとりの男。彼は主人公の師であり主でした。彼を愛してしまったせいで、商人であった男の人生が、だんだんと崩れ始めていくのです。

 

本作は、太宰がしゃべった言葉がそのまま文章になっているので、男が訴えている言葉が、流れるような口語で書かれているのが特徴です。
男の訴えを目の前で聞いているような緊迫感と臨場感にあふれており「愛している!」と「憎い!」という感情が波のように押し寄せてくるのを、肌で感じられるような作品です。

太宰の美しい言葉で紡がれる愛憎劇は、言葉のひとつひとつが生々しく、冒頭から最後まで駆け抜けていく疾走感には、息つく暇もありません!

人生が狂うほど人を愛したことがない、という人にも、男の純粋な愛の訴えは胸に迫るものがあるでしょう。そういう愛を体験したことがある人にとっては、胸が抉られるようなお話かもしれません。

「人を愛する美しさと苦しみ」を、理性ではなく本能をむき出しにして書き尽くしたのが本作『駈込み訴え』。

これが「人を愛する」ということか……と思わず息を飲む。間違いなく太宰の傑作です!

 

『駈込み訴え』の男の訴えに耳を傾むけて

太宰の口から「蚕が糸を吐くように」紡がれた愛と憎しみの物語。
人生が狂うほど人を愛してしまった男の訴えに、ぜひ耳を傾けてみてください。

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今回ご紹介した作品

走れメロス』より「駆込み訴え」
太宰治(著)、新潮社

 

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