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太宰治『お伽草紙』|太宰治版「カチカチ山」うさぎは16歳の美少女だった?


こんにちは。三度の飯より文学好き・アオノです

今月から、週に一回、私が大好きな文学作品をご紹介していきます!

新しい本との出会いのきっかけになれば嬉しいです。

さて、第一回目の今日はこちらをご紹介します!

 

太宰治『お伽草紙』より「カチカチ山」

『お伽草紙』より「カチカチ山」
太宰治(著)、新潮社

 

「カチカチ山」といえば、みなさまおなじみ、あの兎と狸の昔話です。
この「カチカチ山」をなんと太宰治も書いていたのはご存知ですか?

太宰治の『お伽草紙』は、昔話や古典を題材に、太宰が新解釈して書いた物語が収録されています。
「カチカチ山」「浦島太郎」など誰もが知っている昔話や、井原西鶴の作品を題材にした「新釈諸国噺」などが入った短篇集です。

 

そもそも「カチカチ山」とは?

まずは、昔話の「カチカチ山」のおはなしをおさらいしてみましょう!

「カチカチ山」とは、兎が、性悪狸をこらしめて、殺されたおばあさんの仇を討つ物語。

おばあさんは、おじいさんが捕えた、畑を荒らす性悪狸にだまされて、狸に殺されてしまう。悲しむおじいさんを見かねて、兎が仇を討つと約束をする。兎は狸の欲深さを利用し、狸を芝刈りに誘い、背中に火をつけ大火傷を負わせ、火傷にはしみる薬を塗り込み、最後には泥の船に乗せて、狸を溺れ死にさせ、仇を討った。


ざっくりといえばこんなお話です。狸の欲深さを利用して、狸を誘い出し、こらしめて仇討する、というもの。

さて、これが太宰の手にかかると、こうなります。

 

太宰治の「カチカチ山」は少女と中年男の恋物語

 カチカチ山の物語における兎は少女、そうしてあの惨めな敗北を喫する狸は、その兎の少女を恋している醜男。これはもう疑いを容れぬ厳然たる事実のように私には思われる。(冒頭より)

太宰は「カチカチ山」を、美しい兎に恋をした狸の恋物語として描きました。

本来なら狸は、その強欲が祟り兎の罠に引っかかりますが、太宰の「カチカチ山」では、恋心を利用されて兎の罠にかかります。
つまり、狸の「欲」の正体を「盲目の恋」と解釈したのです。

というのも、太宰は「カチカチ山」を読んで「この兎、仇討にしては、やり方がねちっこく、男らしいやりかたではない。なぜだろうか?」と思ったそうです。

そこで太宰が考えたのが、この兎が十六歳の冷酷な少女で、狸が愚鈍な中年男である、という説でした。

太宰の「カチカチ山」のストーリーは原作通り、兎がおばあさんの仇を討つ物語です。仇討の方法も全く同じで、狸は最後、泥の船で沈み命を落とします。

慣れ親しんだ「カチカチ山」とまったく同じ話の筋なのに、太宰の手にかかれば、少女が持つ残酷さと、何をされても好きな子の関心を引きたい、と思う哀れな男の姿を浮き彫りにさせた「カチカチ山」が出来あがるのです。

「恋は盲目」とはまさにこのこと。兎が好きで、誘われれば舞い上がってしまう狸が、ほいほいと兎の話に乗ってまんまと仇討をされていく姿は、実に滑稽で悲劇でありながら、喜劇のようにも思えますね。

 

教訓は「好色の戒め」

太宰が言うには『カチカチ山』は「好色の戒め」の物語。

お話は確かにあの有名な『カチカチ山』なのですが、狸が兎に恋をしている心情や、兎が露骨に嫌がりながらも、狸を手玉に取っていく様子は、現代の人間の恋物語のようです。狸は、兎の態度にも気づかず、何をされようとも夢見心地なのですね。

太宰のカチカチ山論から始まり、次第に童話と現代が混ざったような世界に引きずり込まれていくのが面白さでもあり、太宰の筆力なのでしょう。

そして、『カチカチ山』を通じて「恋する諸君、気をつけろよ!」と、恋をする読者に警鐘を鳴らす太宰の、巧みなストーリーの運びとユーモアセンスには脱帽ですね。

 

新解釈太宰版昔話

カチカチ山は、子どもが読む昔話としては「悪いことをしたら自分に返ってきますよ」という因果応報のような教訓を含んだお話だと思います。少々残酷ですけどね。

しかし太宰の「カチカチ山」は、こうして、大人に向けた戒めへの物語に変化していきます。

十六歳の美少女と、少女に恋をする中年男を描いた、太宰版「カチカチ山」。

何が「好色の戒め」なのか。狸の最後のセリフに集約されています。ぜひ読んで確かめてみてください!

 


今回ご紹介した書籍

お伽草紙
太宰治(著)、新潮社