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『キャロル』映画化されたパトリシア・ハイスミス最後の恋愛小説


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小説や漫画が映画化される時、あなたは映画を先に観ますか? それとも、原作を先に読みますか?

アオノはまちまちなのですが、映画を観てからすぐに本屋に走った作品があります。

それが、パトリシア・ハイスミスの著書『CAROL(キャロル)』です。

2016年に映画が上演された本作。映画のキャッチコピーは、

このうえもなく美しく、このうえもなく不幸なひと、キャロル。あなたが私を変えた。

最高の映画でしたが、映画を観た後に読んだ原作小説が特に素晴らしかったので、今回は原作の小説をご紹介します!

 

『キャロル』とは

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『キャロル』
パトリシア・ハイスミス(著)、柿沼瑛子(訳)
河出書房新社

クリスマス商戦のさ中、デパートのおもちゃ売り場でアルバイトをする十九歳の女性テレーズは、美しい人妻と出会う。彼女の名はキャロル。テレーズは恋に近い気持ちを胸に、キャロルに誘われ自動車旅行へ。二人を待つ運命を、彼女たちはまだ知らない……サスペンスの巨匠ハイスミスが匿名で出した幻の恋愛小説、待望の本邦初訳。(表紙カバー裏より)

この物語は、サスペンス小説界の巨匠、パトリシア・ハイスミスが書いた、最初で最後の恋愛小説だと言われています。

パトリシア・ハイスミスは、アメリカ出身の作家で、ミステリーやサスペンス小説を中心に執筆していました。
代表作『太陽がいっぱい』ではフランス推理小説大賞を受賞、『殺意の迷宮』では英国推理作家協会賞を受賞しています。

レズビアン小説家というレッテルを貼られるのが嫌だ、という理由で本作『キャロル』(原題:『ザ・プライス・オブ・ソルト』)は「クレア・モーガン」という偽名を使い出版しましたが、1990年にハイスミス名義で再出版され、タイトルも『キャロル』に改められました。

2016年に公開された映画では、キャロル役を、ケイト・ブランシェットが演じ、テレーズ役を、ルーニー・マーラが演じました。

 

『キャロル』が注目されたわけ

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本作がアメリカで出版されたのは、1951年のことです。

この頃アメリカは、マッカーシズムという、共産党員と共産党シンパとみられる人々を排除する運動が行われている時期で、同性愛者もまた弾圧を受けていました。

パトリシアは1989年のあとがきで、このように語っています。

この本より前のアメリカ小説の登場する同性愛者は男女問わず、世間の規範から逸脱した代償として手首を切ったり、プールで入水自殺を遂げたり、異性愛者に転向していった(といわれていた)。あるいはひとりぼっちで、みじめに、人々から避けられて地獄も等しい憂鬱に転落していった。(文庫版あとがきより)

また、同性愛は「治療」するものだと考えられていた時代です。

そんな同性愛者が弾圧されるような時代に、女性同士の恋愛を描いた小説(しかも心中や自殺などをしない)を発表したことは、大きな話題を呼んだそうです。しかし、ハイスミスがいつも出版していた大きな出版社から、出版を断られた為、小さなほかの出版社から出版されることになりました。

しかし出版の翌年、ペーパーバック版が出版されると、100万部を売り上げる大ヒット小説となったのです。

 

『キャロル』が執筆された裏側にいた一人の女性

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この物語は、ハイスミスが経済的な理由から、クリスマス時期のデパートで働いていた時に出会ったブロンドの女性からインスパイアされて書かれたのだそうです。
なので、テレーズはかつてのハイスミスであり、本作はハイスミスの半自伝的な小説とも言われています。

その女性は人形を買っていき、配送先の住所を書いて代金を支払い帰って行ったそうです。ハイスミスはあとがきで、その時のことを、こう書いています。

それはごくありふれた手順であり、女性は代金を払って帰っていった。しかしわたしは妙な気分になって頭がくらくらし、気を失いそうになっていた。同時に神々しい幻視を見たかのように気持ちが高揚していった。(文庫版あとがきより)

このあと家に帰ったハイスミスは『キャロル』のアイデアと筋立てをノートに一気に書き記しました。

女性の名前は、キャサリーン・セン。富裕層のマダムで、ハイスミスは『キャロル』の執筆中に、何度も彼女の家を訪ねていたそうです。

しかしハイスミスはこのキャサリーンとはその後一度も会うことはなく、その代わりにこの小説が生まれました。

 

テレーズとキャロル、対照的なふたりの女性を描く

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この物語の主人公であるテレーズとキャロルは、対照的な描かれ方をしています。

19歳のテレーズは、内向的な性格で、「老い」への嫌悪や不安を抱き、舞台美術の仕事をすることを夢みながらも、なりたいものになることは無理なのではないかと絶望を抱いています。
そして自分というものがあまりなく、食事のメニューさえ自分で決められない優柔不断な女性です。

一方キャロルは、自尊心が強く、妻であり、母でもあり、教養のある自立した女性です。
しかしキャロルは、夫との離婚成立を目前に控え、夫の間に生まれた幼い娘の親権を争うことになります。
そして、自身に起こる問題に立ち向かっていき、自ら様々な決断を下すのです。

テレーズが、自分とは違った、自立した美しい女性キャロルに惹かれるのは、当たり前のように思えます。テレーズはキャロルを通じて、美しいものへの憧れ、自立、性への関心などを芽生えさせていきます。

一方キャロルは、若く純粋でまっすぐなテレーズに惹かれていき、テレーズのことを「わたしの天使」と言うようになります。キャロルが、若く、自由であり、未来あるテレーズに惹かれるのもまた、当たり前のように感じられます。

 

恋に落ちる瞬間の美しさを感じて

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『キャロル』は、1950年代のアメリカの、少し不安な情勢を映し出した美しい雰囲気が描かれています。人があふれるクリスマスの時期の煩雑さ、冬の寂しさや、テレーズの感じているキャロルへの溢れるばかりの想い、それゆえの不安と焦燥感が、鮮明に描かれています。

テレーズが恋に落ちる瞬間の美しさが、文章を通して伝わってくるのが、ハイスミスの、そして翻訳家柿沢さんの圧倒的な筆力ではないでしょうか。

そして、本作が、ただの女性同士の恋愛を描いた物語ではなく、「人を好きになる」ことがどんなに素晴らしく、ひとりの人を成長させ、強くしていくのかがよくわかる、とても美しい小説です。

テレーズが恋に落ちる瞬間の描写は、映画も原作同様とても劇的なので、本と一緒にぜひ観てみてくださいね。

 

LGBT小説の古典と呼ばれる小説

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出版された当時、この物語の結末は、とても衝撃的であると同時に、多くの同性愛者に希望を与えました。
ふたりの女性の愛の物語を、美しい翻訳と共に、ぜひ楽しんでみてくださいね。

 


【今回ご紹介した書籍】

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キャロル
パトリシア・ハイスミス(著)、柿沼瑛子(訳)、河出書房新社


 

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ライター

アオノ
アオノ
本と芝居とミュージカルが好き。小説と児童書が特に好きです。週末の楽しみは、劇場へ行くこと。舞台を観るため各地へ飛び回るアラサ―女子です。