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三浦しをん『舟を編む』あらすじ・内容|辞書の世界にのめり込んだ人々を描く。


更新日:2017/6/9

『舟を編む』表紙

舟を編む
三浦しをん(著)、光文社

2012年に本屋大賞を受賞。2013年には映画化され、その後アニメ化もした三浦しをんさんの小説『舟を編む』。
「辞書の編纂」という一見地味な仕事にスポットライトを当てた作品です。

ここでは本作をご紹介するとともに、「辞書づくり」をさらに深く知ることのできる本も合わせてご紹介します。

 

トンチンカンだけれども辞書編纂の才能を持った男・馬締

玄武書房につとめる荒木公平は、その人生を辞書に捧げてきました。

定年間近になった彼は、辞書編集部を引き継ぐことのできる人材を探し、営業部にいた馬締光也という社員を引き抜きます。
玄武書房で新たに作ることになった辞書「大渡海」の編集を彼に任せようというのです。

 

律儀だけれどもトンチンカンなところのある馬締。
しかし、下宿先のアパートを本で埋め尽くし、大学院で言語学を専攻するほど「言葉」に興味を抱いていました。

彼は、言葉に対する鋭い感覚を持ち、整然とした美を愛するという、辞書づくりにはぴったりの才能を持っていたのです。

「みっちゃんは、職場のひとと仲良くなりたいんだね。仲良くなって、いい辞書を作りたいんだ」
タケおばあさんに言われ、馬締は驚いて顔を上げた。
伝えたい。つながりたい。
自分の内心に渦巻く感情は、まさしくそういうことだと思い当たったからだ。

(p.35)

はじめは辞書編集部になじめずに悩んでいた馬締。しかし、自分の中に、言葉を使って「伝えたい」「つながりたい」という感情があることを自覚します。

 

辞書作りを全力でサポートする同僚たち

一方、辞書編集部にいるもう1人の社員・西岡は、馬締とは対照的に、お調子者でチャラいところのある男です。
辞書には思い入れはなかったものの、辞書の編纂作業に打ち込み、尽くしてきました。

しかし、馬締という辞書づくりの才能を持った人間が異動してきたことで、「自分はお払い箱になる」という予感を感じ始めます。

 

そして、ついに西岡に、広告宣伝部への異動が言い渡されます。

西岡は、辞書編集部を去る前に、馬締が苦手とする対外交渉に励むようになります。そして、どの部署へ行っても同僚として「大渡海」を全力で支えることを決意します。

大切なのは、いい辞書ができあがることだ。すべてをかけて辞書を作ろうとするひとたちを、会社の同僚として、渾身の力でサポートできるかどうかだ。(p.140)

 

この物語には、辞書編纂に人生をかける人々が大勢登場し、それぞれが情熱を持って仕事に邁進する姿が描かれます。

常に用例採集カードを持ち歩き、語釈に頭を悩ませ、辞書を印刷する紙にもこだわりぬく。
そんな彼らの仕事ぶりを読んでいるうちに、辞書というものの奥深さに気付かされます。

 

映画化も話題になった作品

20170609-fune-amu4

本作は2012年、本屋大賞に選ばれた人気小説です。
著者が「まじめな変人たち」と称したように、辞書作りにとりつかれたメインキャラクターたちは、普通の人とはどこか違った、愛すべき変人たちです。

コミュニケーションがうまく取れない主人公が大学院で言語学を専攻し、奇しくも言葉を操る仕事を始める中、それぞれの人生が編み上げられていく様が秀逸な作品。
辞書編集という内容から、辞書を扱う出版社11社とのタイアップも行っています。

2013年に松田龍平さんを主人公に実写映画化され、日本アカデミー賞作品賞など6部門で賞を獲得しました。

 

「辞書」に興味を持った方に

さて今回は、『舟を編む』で辞書に興味を持った方のために、作中にも登場した、2つの「辞書を知ることのできる本」を紹介します。

 

日本を見つめ、思いを辞書に
『言葉の海へ』

『言葉の海へ』表紙

言葉の海へ
高田宏(著)、洋泉社

馬締たちが編纂する辞書「大渡海」は、「言葉の海を渡る舟」であると荒木は言います。
この名前は、作中にも何度も登場する、日本で初めての近代的辞書「言海」を意識して付けられた名前であることは間違いありません。

「言海」は、明治時代、仙台藩の儒学者の息子として生まれた大槻文彦が編纂した国語辞典です。
この「言海」が生まれるまでを描いたノンフィクション作品が、この「言葉の海へ」です。

戊辰戦争を経て日本を見つめ、辞書という形でその思いを残していった大槻文彦。その情熱を鮮やかに描く1冊です。

 

辞書の面白さを知るならコレ!
『新解さんの謎』

『新解さんの謎』表紙

新解さんの謎
赤瀬川原平(著)、文藝春秋

馬締が「恋愛」という言葉について調べようと、「新明解国語辞典」を開くシーンも印象的です。
西岡は、「新明解国語辞典」の語釈が独特で面白いといいますが、実際にこの辞書は「新解さん」と呼ばれているちょっとした人気者なのです。

「新解さん」の面白さを紹介した本はいくつか出版されていますが、やはりその火付け役となったのはこの「新解さんの謎」でしょう。

「新解さん」に出てくるユニークな語釈を集め、ツッコミを入れていくという本です。クスッと笑えるネタが満載で、「辞書を読む」ということの面白さを教えてくれます。

 

「舟を編む」で辞書の面白さに触れる

誰もが一度は使ったことがありながら、あまり注目をされてこなかった「辞書」という存在。

『舟を編む』はその面白さに気づかせてくれる1冊です。ぜひ一度手にとってみてください。

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