鬼才!三島由紀夫の代表作品を読む
読者のみなさまは、三島由紀夫についてどのようなイメージをお持ちでしょうか。
一般的に最も知られているのは、クーデターを呼びかけた後割腹自殺をしたという、かの三島事件でしょう。このショッキングな事件のイメージがあまりにも強く、三島由紀夫といえば、政治的な言動がクローズアップされがちです。
もちろん、三島由紀夫の作品は政治的なものもたくさんあるのですが、なんといっても三島作品の骨頂はその文体。華美かつ耽美的という、人によって好みが分かれる文体で物語は進んでいきます。
天才とも、鬼才とも言われる三島由紀夫。
これまで三島由紀夫を読んだことのない方がいらっしゃれば、代表作も含め、ぜひ一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
金閣寺
『金閣寺』
新潮社
1950年7月2日、「国宝・金閣寺消失。放火犯人は寺の青年僧」という衝撃のニュースが世人の耳目を驚かせた。この事件の陰に潜められた若い学僧の悩み――ハンディを背負った宿命の子の、生への消しがたい呪いと、それゆえに金閣の美の魔力に魂を奪われ、ついには幻想と心中するにいたった悲劇……。31歳の鬼才三島が全青春の決算として告白体の名文に綴った不朽の金字塔。
(文庫表紙裏より)
三島由紀夫の代表作。
金閣寺消失事件の犯人の動機が「美への反発心」であったことに三島由紀夫が着眼し、事件を綿密に取材したのち、フィクションとして発表した作品となります。
驚きの展開、迫力のある描写、美しい文体。三島初心者は、まずはこの作品から手にとってみることをオススメします。
仮面の告白
『仮面の告白』
新潮社
「私は無益で精巧な一個の逆説だ。この小説はその生理学的証明である」女性に対して不能であることを発見した青年が、幼年時代からの自分の姿を丹念に追求するという設定のもとに、近代の宿命の象徴としての”否定に呪われたナルシシズム”を開示してみせた本書は、三島由紀夫の文学的出発をなすばかりでなく、その後の生涯と文学の全てを予見し包含した戦後文学の代表的名作である。
(文庫表紙裏より)
こちらも三島由紀夫の代表作と呼ばれる作品です。自伝的長編として、同性愛をテーマに描かれた作品であり、当時大きな反響を呼びました。
本書のテーマは”性”。現代のようにLGBTへの理解がなかった時代にもかかわらず、これほどまでに生々しく、切実に描くとは……三島の鬼才ぶりが存分に発揮された作品です。
※LGBT…女性同性愛者(Lesbian)などの頭文字をとったもので、性的少数者を限定的に指すことば。
春の雪―豊饒の海・第一巻
『春の雪―豊饒の海・第1巻』
新潮社
維新の功臣を祖父にもつ侯爵家の若き嫡子松枝清顕と、伯爵家の美貌の令嬢綾倉聡子のついに結ばれることのない恋。矜り高い青年が、〈禁じられた恋〉に生命を賭して求めたものは何であったか?――大正初期の貴族社会を舞台に、破滅へと運命づけられた悲劇的な愛を優雅絢爛たる筆に描く。現世の営為を越えた混沌に誘われて展開する夢と転生の壮麗な物語『豊饒の海』第一巻。
(文庫表紙裏より)
『豊饒の海』シリーズの第1巻。全4巻から成り立っていて、三島由紀夫は最終巻の原稿を入稿した当日、割腹自殺によって生涯を終えました。そのため、『豊饒の海』シリーズは三島の遺作という位置付けになっています。
ストーリーは、一言で言うと”悲恋”。強く思い合っているのに結ばれない2人の行く末は、衝撃的かつ悲劇的。三島作品で最も美しい作品だと、個人的には思っています。
潮騒
『潮騒』
新潮社ほか
文明から孤絶した、海青い南の小島――潮騒と磯の香りと明るい太陽の下に、海神の恩寵あつい若くたくましい漁夫と、美しい乙女が奏でる清純で官能的な恋の牧歌。人間生活と自然の神秘的な美との完全な一致をたもちえていた古代ギリシア的人間像に対する憧憬が、筆者を新たな冒険へと駆りたて、裸の肉体と肉体がぶつかり会う端正な美しさに輝く名作が生れた。
(文庫表紙裏より)
難解と捉えられがちな三島作品の中では、非常に読みやすい作品です。
また、三島に多大な影響を与えた、古代ギリシアの恋愛小説『ダフニスとクロエ』に着想を得た作品としても知られています。
悲恋でない、純愛小説を読みたい方はこちらをどうぞ。
午後の曳航
『午後の曳航』
新潮社
船乗り竜二の逞しい肉体と精神に憧れていた登は、母と竜二の抱擁を垣間見て愕然とする。矮小な世間とは無縁であった海の男が結婚を考え、陸の生活に馴染んでゆくとは……。それは登にとって赦しがたい屈辱であり、敵意にみちた現実の挑戦であった。登は仲間とともに「自分達の未来の姿」を死刑に処すことで大人の世界に反撃する――。少年の透徹した観念の眼がえぐる傑作。
(文庫表紙裏より)
フォルメントール国際文学賞候補作品。唯一、海外で映画化された作品ということもあり、三島作品の中で特に外国での評価が高い作品と言われています。
結末がショッキングすぎて、読んだ人はきっと当惑することでしょう。一度読むと忘れられない一冊です。
女神
『女神』
新潮社
「まだ初々しいヒロインを、理想のミューズ(女神)に育てようとする主人公の物語」といえば、『源氏物語』や『マイ・フェア・レディ』などが有名です。
少し変化球ではありますが、三島由紀夫の『女神』もその一つ。
しかしながらこの物語では、ヒロインがただ美しくなるわけではありません。
理想の女性美を求める主人公・木宮周伍によって施された美の教育により、周伍の妻と娘の生活は少しずつ歪んでいくのです。
妻子の美を追究し続けた父親、そして偏狂的な美をたたき込まれた妻と娘の人生の行方とは……?
文体・分量ともに読みやすい仕上がりとなっているので、「三島由紀夫ってちょっと難しそう……」と読むのをためらっている人にもおすすめです。
お嬢さん
『お嬢さん』
角川書店
周囲の人から、良い意味でも悪い意味でも「お嬢さん」と言われるうぶなヒロインが主人公。そんなお嬢さんが、恋愛と結婚を経て、芯の強い女性に成長していく物語です。
三島由紀夫作品の中では珍しい、少女漫画のような読後感が味わえるところがポイント。
ドライな女を演じていたヒロインが、恋や嫉妬、疑心暗鬼といった波にもまれて、人の愛し方を学んでいきます。
「三島由紀夫作品ってどれも重いんでしょ?」と思っている人にぜひ読んでほしい一冊です。
宴のあと
『宴のあと』
新潮社
『お嬢さん』と同じく、ヒロインが恋と結婚を経ながら人生を渡っていく作品です。
『お嬢さん』との大きな違いは、主人公の年代と作品の重厚感。『宴のあと』のヒロインの年齢はなんと50代で、高級料亭を切り盛りしている一流の女将です。
そこに客としてやってきた男性・野口と出会い、結婚に至りますが、同時に「夫の都知事選を支援する」という激動の立場に奔走することになります。
夫婦で挑んだ選挙の過程、そして結末とは? 重厚な『宴のあと』を堪能してみてください。
夏子の冒険
『夏子の冒険』
角川書店
大文豪に向かってライトすぎる表現かもしれませんが、「三島由紀夫が書いたラノベ」というとしっくりくるポップな作品です。
この作品は、望まない男との結婚を嫌がって「修道院に入る」と言い放つ破天荒な主人公・夏子の恋愛と冒険の物語。
恋人をクマに殺されて仇討ちに行こうとする青年・毅など、キャラクター設定も非常にユニークです。
1953年にはかの有名な中村登監督の手によって映画化もされています。
軽いタッチの三島由紀夫コメディを楽しみたい人におすすめです。
絹と明察
『絹と明察』
新潮社
『絹と明察』は、神話の時代から繰り返し語られている「父殺し」をテーマにした作品です。
三島由紀夫作品の中では「異色」ともいえる、「労働争議」をめぐるストーリー。
紡績会社の社長である主人公・駒沢善次郎が、従業員たちの反発を受けて没落していくさまが描かれています。
本作は、毎日新聞社主催の芸術賞「毎日芸術賞」の文学部門賞を受賞した作品としても知られているほか、三島由紀夫の末年(執筆当時39歳)に書かれた作品でもあります。
気になる人は一読してみてはいかがでしょうか。
三島由紀夫の才能に触れてみよう
三島由紀夫の代表作をご紹介しました。
読めば絵画のような光景が目に浮かぶ鮮やかな文体と、生々しい人間の姿を書く圧倒的な描写力。
今もなお追随を許さない完成度を誇る「三島由紀夫作品」には、一度ハマると抜け出せない魅力がつまっています。
気になった作品があればぜひ読んでみてくださいね!
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