「『罪と罰』を読まない」本って!?『罪と罰』を読まずに語り合う本が面白い
更新日:2016/8/22
世界的名作である、ドストエフスキーの『罪と罰』。あなたはこの作品を読んだことがありますか?
興味はあるが一度も読んだことがない、読んだことはあるが挫折した、読んだけど覚えていない……そんな人も多いはず。
今回は、そんな『罪と罰』を「読んだことがない」と豪語する、岸本佐知子さん、吉田篤弘さん、三浦しをんさん、吉田浩美さんら4人による、「読まない読書会」の模様を収録した「『罪と罰』を読まない」をご紹介します。
※ネタバレにはご注意ください。
なぜ「読まずに読書会」をするのか?
「『罪と罰』を読まない」
岸本佐知子、吉田篤弘、三浦しをん、吉田浩美(著)
文藝春秋
この読書会の参加者は、作家や翻訳家、ブックデザイナーなど、小説に関わる仕事をしている方ばかり。
そもそも、なぜこのような読書会を企画したのかについて、本書の冒頭でその理由が語られています。
『罪と罰』を読んだことのない人でも、「ラスコーなんとかという青年がおばあさんを殺してしまう」話だと知っていることは多いでしょう。
しかし一方で、『罪と罰』を読んだことのある人に訊いてもこんな答えが返ってきます。
「たしか主人公がラスコーなんとかで」「おばあさんを殺しちゃうんじゃないですか?」——どこかで聞いたことのある台詞だった。(p.7)
読んでいても読んでいなくても大差がないのなら、読まなくても読書会ができるのではないか?と感じた4人。
「たとえば、四人が知っている数少ない情報を寄せ集めて、そこから探偵のように推理してゆくわけです」
「何を?」
「『罪と罰』がどんな物語なのか。話の筋を推測し、作者の意図や登場人物の思いを探りあてる」
「読まずにそんなことができるかなぁ」
可能かどうかは、やってみなければ分からない。(p.8)
さぁ、本作には一体どんなことが書かれているのでしょうか?
冒頭から「ドストの罠」にはまる
この本では、あらすじなどの知識や、NHKで見た15分の影絵番組の記憶などをもとに、いくつかのページを断片的に読み進めつつ、どんな話なのかを推理していきます。
まず参加者に与えられたのは、物語の冒頭と、本編ラスト1ページ。
冒頭は主人公であるラスコーリニコフが下宿で鬱々としている場面、ラストはラスコーリニコフがイリヤに供述をする画面です。
どうやら、ラスコーリニコフが罪を犯し、自白するまでの間を描いた作品のようです。
続いて与えられるのは、エピローグのラスト1ページと、冒頭のページの続きです。エピローグでは、どうやら重要人物らしいソーニャという女性が登場。
そして、冒頭ページの続きでは、なにか大それたことを計画し、そんな自分に酔っている主人公の姿が描かれ、早速メンバーの興味をひきます。
岸本 なんかね、もうウザいの、この人、全体的に。
三浦 ふむふむ、なるほど——と思って線を引いたら、「これはちょっとした格言だ」なんて自分で言ってやがる!
篤弘 しをんさん、それはもうドストの罠にはまってるよ(笑)。(p.54)
ちょっとウザいけれど、そのウザさゆえに目が離せない主人公ラスコーリニコフ。では、ソーニャとはどんな人物なのでしょうか?
どうやら売春婦で、殺された女性の知人らしいのですが、どうやってラスコーリニコフと関わっていくのでしょうか?
ドストエフスキーのニクい話運びにドキドキ
ソーニャをめぐり、殺人を犯したラスコーリニコフとソーニャの逃亡劇だ、いや殺されたリザヴェータの仇を取ろうとソーニャが警察に証言するのだ、と参加者の推理は盛り上がります。
そして与えられた第三部のラスト。副主人公とも言われる謎の人物が登場し、いいところで第四部へ続きます。
浩美 それにしても、第三部ってすごくいいところで終わってるよね。謎の人物がやってきて——。
岸本 『SHERLOCK』方式だよね。もしかして、クリフハンガーもドストの発明だったりして。
篤弘 たしかに、この最後はニクいなあ。
浩美 うん、ニクい。ドキドキしてくる。
だんだんと、物語にひきこまれていく4人。飛び飛びに1ページずつ読み進めていきますが、どのページにも重要な情報が盛り込まれています。
そしてこの作品は、長大な逃亡劇ではなく、ジェットコースター展開のストーリーだと気付いた4人。ついには『罪と罰』を読むことを決心するのです。
想像力あふれる推理が楽しい
この本の楽しさは、なんといっても想像力あふれる4人による、歯に衣きせぬやりとり。
登場人物にあだなをつけ、殺された金貸しのおばあさんのことを「因業ばばあ」と呼んでみたり、ラズミーヒンを「馬」と言ってみたり(ヒンが馬っぽい?)……。
『社長 島耕作』の知識でサンクトペテルブルグについて語ったりと、くすっと笑えるところがたくさん!
小説に関わる仕事をしている4人だからこそできる、想像力あふれた推理も楽しいです。
もちろん、こんな読書会ができるのも、読者をひきこむ力をもった名作だからこそ。メンバー自身が、大いに楽しんで読み進めていく様子が伝わってきます。
読み終わった後の読書会では、『罪と罰』は推理していたよりももっと「変」だったといい、ドストエフスキーの凄さを「超進化系」とも評しています。
文学というと、むずかしい顔をして、難解な文章を読み解かなければならないというイメージもあると思います。
ですが、この本を読むと「こんな楽しみ方をしてもいいんだ!」と気づかせてくれますよ。
『罪と罰』を題材に、読書の楽しさを教えてくれる1冊
「重厚」というイメージが覆され、『罪と罰』の面白さ、そして読書の楽しみ方を伝えてくれる1冊。
読んだことのない方にも、一度読んだことのある方にも、ぜひおすすめしたい作品です。
【関連記事】ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』あらすじとその魅力を解説
今回ご紹介した書籍
「『罪と罰』を読まない」
岸本佐知子、吉田篤弘、三浦しをん、吉田浩美(著)
文藝春秋