ブックオフオンラインコラム

ブックオフオンライントップへ

ブックオフオンラインコラム > 本に出会う > 文学小説 > 中山可穂『猫背の王子』とは|女性同士の愛を描く究極の恋愛小説

中山可穂『猫背の王子』とは|女性同士の愛を描く究極の恋愛小説


更新日:2017/6/29

女性同士の恋愛を描いた小説を読んだことがありますか? また、女性同士の恋愛小説について、どのようなイメージをもっていますか?

わたしは、中山可穂さんの小説を初めて読んだとき、女性同士の恋愛をこんな風に書かれる方がいたのか!と衝撃を受けました。

ここでは、中山可穂さんの作品の中でわたしが1番おすすめしたい「王寺ミチル」を主人公とした3部作をご紹介します。

 

センセーショナルな処女作!
『猫背の王子』

『猫背の王子』表紙

猫背の王子
集英社

「自分とセックスしている夢を見て、目が覚めた」(集英社文庫版 冒頭より)

この冒頭の一文に胸を鷲掴みにされたら、もう離してやらないぞと言われているような、愛の痛みと焦燥、官能と疾走感を感じる1冊。
持ち込み原稿から出版に至った、中山可穂さんの処女作です。

『猫背の王子』は、芝居に命を捧げる、小劇団「カイロプラクティック」の脚本・演出を務め、自らも舞台に立つ王寺ミチルの物語。

劇団には熱狂的なファンがつき、すべてがうまくいっていたように思えていたが、あることがきっかけで劇団が崩れていき、そして、最後の舞台の幕が上がろうとしていた……。

 

永遠の少年像、猫背の王子ミチルの魅力

20170629-nekozenoouji-2

『猫背の王子』は王寺ミチルが主人公のシリーズ1作目。このシリーズの魅力は、何といっても主人公である王寺ミチルにあります!

ミチルは女性ですが、舞台では少年役しか演じず、関係を持つのも女性だけ。舞台の上では永遠の少年像を演じ、観にきた少女たちはミチルに、愚かで熱狂的な恋をしていきます。

演出家としてのミチルは芝居への情熱に満ちており、ワガママで破天荒。おまけに、女性の間を渡り歩くというかなりのプレイガール。痩せた少年のような、中世的なミチルは、まさに女の子たちの「王子様」。
こんな人が近くにいたら、男でも女でもミチルに恋してしまいそうです……!

けれども、芝居と劇団と猫を愛し、やがて抜け出せない愛に嵌っていくミチルの姿は、哀しいくらいに純粋でひたむきです。
そして『猫背の王子』を読み終わるころには、ミチルを抱きしめたくなるほど愛おしく思えてくるのが不思議です!

 

最初に読むならこの1冊!

20170629-nekozenoouji-3

中山可穂さんは文庫版のあとがきでこのように語っています。

「わたしがこれまでに書いてきた主人公の人間像は、すべて王寺ミチルの変形であったように思われる」

「処女作の呪縛とはかくも強大なものであったかと、自分でもびっくりしてしまう。」

中山可穂さんも書いている通り、王寺ミチルは彼女が後に書いた沢山の小説の主人公たちの中に、ひっそりと息づいているように感じます。

『猫背の王子』は、その後の中山可穂さんの小説の原点のような作品だと思いますので、中山可穂さんの世界を知るにはうってつけの一作。また、芝居への愛がぎゅっと詰まった王寺ミチルシリーズは、芝居をやったことがある人、芝居が好き好きで仕方がない人にもおすすめです。

そして、女性同士の恋愛小説を読んだことがない方のイメージを、見事に崩してくれる1作ですよ。

 

あわせて読みたい2作目、3作目もご紹介します。

 

ボロボロの天使の幻覚を見る
『天使の骨』

『天使の骨』表紙

天使の骨
集英社

「パリからニースへ向かうTGVのなかに、わたしは麦わら帽子を忘れた」(集英社文庫版 本文冒頭より)

『猫背の王子』から3年後、ミチルはボロボロの天使の幻覚を見るようになります。

天使の幻覚を連れて、ミチルはあてのない旅に出る。イスタンブール、ギリシャ、ウィーン……まるで巡礼のようなその旅の果てに何が見えたのでしょうか……?

 

中山可穂さんは本作で、第6回朝日新人文学賞を受賞しています。

自身が世界を旅した経験が盛り込まれた本作は、アジアやヨーロッパの街並み、そこで生きる人々の息遣いが色鮮やかに浮かび上がってくるような描写が秀逸です。

ミチルは、天使の幻覚から逃れられるのか。それとも、天使の幻覚に引きずられるように、死の淵へと向かっていくのでしょうか。

『天使の骨』から読むこともできますが『猫背の王子』から読むと、より楽しむことができますよ!

 

目指すはスペインの聖地 サンディアゴ
『愛の国』

『愛の国』表紙

愛の国
KADOKAWA

「そのひとの姿を最初に目撃したのは、誰よりも早起きのカワセミであったかもしれない。」(角川文庫版 本文冒頭より)

中山可穂さんが、『猫背の王子』から20年の時を経て書ききった、王寺ミチルシリーズの最後の作品です。

 

同性愛者を迫害し、同性愛をテーマにしたあらゆる芸術も弾圧する「愛国党」が政権を握った日本。記憶を失ったミチルは、本当の巡礼の旅に出る。

四国を回り、最後に目指すはスペインの聖地 サンディアゴ・デ・コンポステーラ。

ミチルが記憶を失った理由とは。そして、同性愛者が弾圧される殺伐とした日本で、芝居を愛する同性愛者のミチルはどのような結末をたどるのか……。

 

本作は、同性間の愛、異性間の愛、友情……あらゆる「愛」を描いた壮大な物語になっており、同性愛者が弾圧される国もあるこの世界への強い想いを感じます。

最後の1ページに描かれた、息をのむほどの美しい景色は、まさにカタルシス! ぜひ『猫背の王子』から続けて読んでいただきたい1作です。

 

まずはミチルと出会うことから!

20170629-nekozenoouji-4

ミチルは中山可穂さんの小説の原点であり、彼女の小説には欠かせない存在です。

ミチルのことが気になり始めたら、中山可穂さんの作品をまだ読んだことがない方もぜひ1度、王寺ミチルを出会ってみてください!

今回ご紹介した書籍

王寺ミチルシリーズ

猫背の王子』集英社
天使の骨』集英社
愛の国』KADOKAWA

 

『猫背の王子』を読んだ後は、こちらの作品もおすすめ!
【関連記事】映画化されたパトリシア・ハイスミス最後の恋愛小説『キャロル』