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「桜」にまつわるおすすめ文学|「桜」の文学を楽しもう


更新日:2018/4/4

「桜」にまつわるおすすめ文学

みなさん、お花見は行きましたか? 昔から桜は文学作品の題材として、多くの文豪に愛されてきました。

「桜の文学」として一番に名前があがるのは、坂口安吾『桜の森の満開の下』ではないでしょうか。タイトルだけは聞いたことがある、という方もいるかもしれません。
並んで代表的なのは梶井基次郎『桜の樹の下には』があります。

ほかにも、

小泉八雲『十六桜』
石川淳『山桜』
樋口一葉の処女作『闇桜』
水上勉『桜守』
宇野千代『薄墨の桜』
太宰治『桜桃』

などは「桜」を題材にした「桜の文学」です。

今回はこの中から、おすすめの4作品をピックアップしてご紹介します!

今年の春は、「桜の文学を楽しむ春」にしてみるのはいかがでしょうか?

 

美しくおそろしい満開の桜の森
坂口安吾『桜の森の満開の下』

『桜の森の満開の下』表紙

桜の森の満開の下
坂口安吾

主人公である山賊と、妖しく残酷な山賊の女房を描いた幻想的な小説。

ある山に山賊が棲んでいる。山賊は街道で人を襲って身ぐるみを剥がしては殺していたが、桜の森の下を通ると、いつも気が変になるような気がしていた。

ある日山賊は、殺した男の連れていた美しい女を女房にしたのだが、女はワガママで怖ろしいほどに残酷だった。女は山賊が家に住まわせていた七人の女房を次々に殺させていき……。

 

『桜の森の満開の下』というタイトルのとおり、桜が満開に咲く森が登場します。

今、桜といえば、お酒を飲んだりお弁当を食べたりする花見のイメージですが、それは江戸時代からの話なのだとか。本作に登場する桜は、今の桜とは少し違います。
桜の樹の下にいると、山賊は怖ろしくなり、泣きだして、叫びだしたくなる、というのです。

 

本作では桜は、美しく怖ろしいものとして描かれています。

花の下では風がないのにゴウゴウ風が鳴っているような気がしました。そのくせ風がちっともなく、一つも物音がありません。自分の姿と跫音ばかりで、それがひっそり冷めたいそして動かない風の中につつまれていました。花びらがぽそぽそ散るように魂が散っていのちがだんだん衰えて行くように思われます。(講談社版 『桜の森の満開の下』100ページ)

たしかに桜は美しい。でも、満開の桜の下にひとりで立っていると、美しすぎて少し怖くなる、というのも頷けます。
本作を読むと、桜のイメージが少し変わるかもしれません。

満開の桜を想像しながら読んでみてください。怖ろしいほどに美しい桜の景色が、きっと見えてきますよ。

 

「桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる!」
梶井基次郎「桜の樹の下には」

『檸檬』表紙

檸檬』より「桜の樹の下には」
梶井基次郎

「俺」が「お前」に語りかける形式で書かれた短編小説。「俺」はここ数日、桜の美しさの正体がわからず、不安に思っていた。しかしついに、その正体がわかった。
桜があんなに見事に咲いているのは「桜の樹の下には屍体が埋まっているから」である……。

 

「桜の樹の下には屍体が埋まつている!」

という冒頭は有名すぎるほど有名ではないでしょうか。坂口安吾の『桜の森の満開の下』と間違えやすいのですが、「桜の樹の下に屍体が埋まっている」は本作が出典なんです。

本当に短い小説で、3分くらいで読めてしまいます。ですが、短い中に梶井基次郎の桜への不安や、生と死の描写が生々しく描かれた小説でもあるのです。

 

本作では、桜をこのように描いています。

一体どんな樹の花でも、所謂真っ盛りという状態に達すると、あたりの空気のなかへ一種神秘な雰囲気を撒き散らすものだ。それは、よく廻った独楽が完全な静止に澄むように、また、音楽の上手な演奏がきまってなにかの幻覚を伴うように、灼熱した生殖の幻覚させる後光のようなものだ。それは人の心をたずにはおかない、不思議な、生き生きとした、美しさだ。(新潮文庫版『檸檬』162ページ)

真っ盛りの満開の桜は、空気さえも神秘的にさせる。そして、満開の桜の下は静寂を感じさせるのです。桜がどれほど美しく、そしてどれほど人の心を掴んでいるのかを感じさせる一作。

「桜の樹の下には屍体が埋まっている」という言葉は何が元になっているのか、知っているとちょっとした桜の豆知識にもなりますよ。
そして本作を読むと、桜の樹の下にどんな屍体が埋まっているのかが想像できて、さらにリアリティが増すことでしょう。

 

誰かの命で咲いた花
小泉八雲「十六桜」

『小泉八雲名作選集 怪談・奇談』表紙

小泉八雲名作選集 怪談・奇談』より「十六桜」
小泉八雲

伊予の国に「十六桜」と呼ばれる古い桜の木がある。毎年、旧暦の1月16日に開花し、その日のうちに散るという。
その桜には、ある人の魂が宿っている。その人は、伊予の国の侍であり、その古い桜の木をたいそう愛していたが……。

 

小泉八雲の短編小説で、3分もあれば読める短いお話。

本作は、珍しい伝承や不思議な言い伝えを描いた「奇譚」のひとつであり、桜の美しさと武士の生き様が短い文章の中に凝縮された、「日本人の心」が劇的に描かれている秀逸な作品です。

本書では、「十六桜」は「自分のものではない命で咲く花」だと書かれています。ほかの者の命で花が咲く、とはどういう意味なのか……ぜひ読んで確かめてみてください。

本作の他にも正岡子規や小林一茶などが、「十六桜」についての俳句を読んでいます。「十六桜」の不思議な伝承や、寒い時期に咲く特性は、多くの作家の創作意欲をかき立てたのかもしれませんね。

「十六桜」が収録されている、小泉八雲の『怪談・奇談』は「十六桜」の他にも「耳なし芳一」や「ろくろ首」など、日本のさまざまな怪談、奇談が収録されています。昔から伝わる日本の怪談や伝承が楽しめる1冊です!

 

自殺する直前に発表された短編小説
太宰治『桜桃』

『桜桃』表紙

桜桃
太宰治

太宰が自殺する一週間前に発表された短編小説。

主人公は、三人の子どもと妻と暮らす作家の男。子供より親が大事、と思いたいが、男の家庭では親の方が子供より弱い。男は気まずい事に耐えられない性格で、いつも冗談ばかり言う。
妻は子供の世話で忙しい。実はこの夫婦、一触即発であり……。

 

ある家族を描いた作品であり、太宰の家族がモデルとも言われています。本作にちなんで、太宰の誕生日6月19日は「桜桃忌(おうとうき)」と呼ばれています。

タイトルの「桜桃」とは、さくらんぼのこと。本作に桜は登場しません。
さくらんぼ、と聞くと甘くておいしいイメージがありますが、『桜桃』に登場するさくらんぼは意外な描かれ方をしています。

 

主人公の男はまるで太宰のような男、『桜桃』の作品中には「太宰」という作家を批評するシーンも登場するんです。
太宰が、家族のこと、小説を書くこと、そして生きることに対して、こんな不安を感じていたのかもしれない、と思わずにはいられなくなります。

桜の花は登場しませんが、太宰の父としての姿、夫としての姿、そして作家としての姿が垣間見えるような作品です。とても短い作品なので、ぜひ一度読んでみてください。

 

「桜」にまつわる文学を読んでみよう

桜が咲くのはわずかな間ですが、桜の時期に桜の文学を読むというのは風情があるなぁと思います。

美しすぎる桜の魅力に取り憑りつかれた作品たち。どれも有名な作品ですので、満開の桜に想いを馳せながら、ぜひ読んでみてくださいね。

 

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