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極上の恋愛文学|100年前の恋を知る


更新日:2018/3/28

極上の恋愛文学|100年前の恋を知る

今も人気のあるジャンル、恋愛小説。そんな恋愛小説は、100年も前から存在しています。

そこで今回は、恋愛を描いている文学作品をご紹介します!どれも約80年~100年前に書かれた作品です。文学作品でも、さまざまな恋愛を描いた小説が存在するんですよ!

今も昔も、恋をし、愛する気持ちはかわらないんだなぁと思わせてくれる作品ばかりです。

美しい文学作品の恋物語の世界を堪能してください。

 

美しき自己犠牲の愛
谷崎潤一郎『春琴抄』

『春琴抄』表紙

春琴抄
谷崎潤一郎

幼い頃の病により失明した少女・春琴と、春琴の丁稚・佐助の献身の愛の物語。

盲目の三味線奏者である春琴は、弟子となった佐助に厳しい稽古をつけていた。やがて春琴は独立し、佐助も同行するが、春琴はその才能と美貌のせいで、恨みや妬みを買い、ある日とうとう事件が起こる。
事件の後、佐助は春琴のため、ある思いもよらない行動に出る……。

 

ワガママに育った才能あふれる美しき盲目の三味線弾き・春琴と、弟子であり、春琴にすべてを捧げる佐助の「自己犠牲の愛」の物語。

谷崎潤一郎の代表作のひとつで、春琴と佐助の生涯を描いた、美しい小説です。句読点や改行を極力省いた独特の文体で、耽美な愛の世界を描いてるのが本書の特徴です。

佐助が春琴のために起こした行動はとても痛々しく、読んでいて辛くなるのですが、佐助にとっては最高の幸せだった……。こんなに美しく痛々しい献身的な愛が存在するのだと思わずにはいられなくなる1作。

春琴と佐助のような恋がしたい……とは思いませんが、こんなに誰かを愛することができたなら幸せなのかもしれません。極端かもしれませんが、これぞ「愛」なのかもしれないとも思いました。

まさに「究極の愛」の物語。これほどに深い愛の物語を、私は他に知りません。

 

初めて一目ぼれをした
夏目漱石『三四郎』

『三四郎』表紙

三四郎
夏目漱石

東京大学に合格し、熊本から東京に出てきた主人公・小川三四郎の青春を描いた物語。

ある日大学の構内の池で、里見美禰子(さとみ みねこ)と出会う。三四郎は一目で恋に落ち、美禰子に惹かれていく……。

明治時代の日本の景色や、日本人の内面を描き出だした青春の物語。『それから』『門』へと続く、夏目漱石前期3部作の1作目となる作品。

 

『三四郎』は、ひとことで言うと、三四郎の「青春」を描いた小説です。

熊本から上京してきて、大学生活をスタートさせた三四郎。
真面目な堅物だった三四郎でしたが、美禰子に一目惚れをしてしまったその日は、授業へのやる気をなくしてしまい、授業をさぼってしまうんです。

まさに恋わずらい! 恋をしている三四郎の様子が、なんとも初々しく、かわいらしく、読みながら自分が学生だった頃を思い出してしまいました。
おまけに美禰子は、何もかも三四郎より一枚上手。三四郎は、美禰子にからかわれたり、嫉妬させられたりして、振り回されていきます。やがて三角関係へと発展していく三四郎の恋……果たして三四郎の恋は実るのでしょうか?!

漱石が青春の恋物語を書いているなんて、最初に読んだときは驚きました。ですが、恋する気持ちは今も昔も変わらないのだなぁと、読めば読むほど思う1作です。

 

初恋はリンゴの樹の下で……
島崎藤村『初恋』

『初恋』表紙

初恋
島崎藤村

島崎藤村の詩集『若菜集』に収録されている詩のひとつ。明治時代に書かれた詩で、りんごの樹の下でいつも待ち合わせをして逢瀬を重ねていた少年と少女の恋を詠っています。

少年の視点で書かれた「初恋」。
ある日、いつものように少年がリンゴの樹の下に行ってみると、今までおかっぱのような髪型をしていた彼女が、髪を結って立っているのを見つけます。

明治時代、女性は12歳~13歳頃になると、大人になった証として髪の毛を結う風習がありました。昨日までとは違い、髪を結って少し大人びた彼女を見つけて、少年は初めて「恋」をするんです。

 

みなさんも、相手の些細な仕草や少し大人びた様子に惹かれて恋をした経験があるのではないでしょうか? 恋の始まりって、そういう些細なことだったりするんですよね。

本作は「初恋」というタイトルのとおり、恋の始まりを描いた詩。少年と少女の恋は、初々しさの中にはっとする艶と美しさがあります。

青春の瑞々しさや情熱、恋などを存分に描いた『若菜集』は、明治時代の若者たちから絶大な人気を得ました。
五・七・五調の流れるようなリズムと甘美な世界が存分に堪能できる島崎藤村の詩。青春時代の情熱や恋の甘酸っぱさを感じたい方におすすめです!

 

生命よりも恋が大事
泉鏡花『夜叉ヶ池』

『夜叉ヶ池』表紙

夜叉ヶ池
泉鏡花

大正時代、「鐘をつき忘れると村が水底に沈む」という言い伝えを守り、一日に三度村の鐘をつき続ける男のお話。

主人公・萩原は言い伝えを守るため、一日三度鐘をついて暮らしていた。一方「夜叉ヶ池」には、池の主・白雪が住んでおり、白雪は剣ヶ峰の殿方に恋をしていた。
しかし白雪は、人間が鐘をつき続けるかぎり、池を離れることができないでいるのだが……。

 

『夜叉ヶ池』は、言い伝えを守り鐘をつき続ける人間と、夜叉ヶ池に住む人間ではない者たちを描いた物語。

熱い恋の炎を燃やすのは、夜叉ヶ池の主・白雪。白雪は人間ではありませんが、「恋する力」は人間と変わりません。泉鏡花が描く美しい言葉の中に、恋をする女性の想いの強さが伝わってくるセリフが秀逸なんです。

『夜叉ヶ池』でわたしが最も印象的なのは、白雪の想いがこもったこのセリフ。

「生命のために恋は棄てない」

自分の命のために、恋をあきらめることはできない。たとえ恋心を貫いたことで天罰がくだっても構わない、あの人に会いたい……そんな白雪の熱い恋の想いが詰まった一節です。

私は『夜叉ヶ池』を読んでから、このセリフが忘れられません。遠距離恋愛の殿方に、白雪は無事に会うことができるのでしょうか?

過去の熱い恋を思い出したり、今こんな恋をしている方もいるかもしれませんね。
人間の「愛」と、妖怪の「恋」が美しい言葉で描かれており、幻想的な世界が好きな方におすすめしたい1作です。

 

妖怪と人間の恋を描く
泉鏡花『天守物語』

『天守物語』表紙

天守物語
泉鏡花

姫路城の天守閣に棲む、美しい妖怪・富姫と、人間の鷹匠・姫川図書之助(ずしょのすけ)の恋の物語。

長い間、人が立ち入ることのなかった姫路城の天守閣には、妖怪たちが棲んでいた。
そこへ、殿様の白い鷹を逃がした罪で切腹させられそうになっている図書之助が、白い鷹を探しに天守へ登ってくる。富姫は、人間の図書之助に惹かれていき……。

 

美女の妖怪・富姫と、鷹匠の人間の男・姫川図書之助の恋を描いた物語。『夜叉ヶ池』とならぶ泉鏡花の代表作です。

「妖怪と人間の恋物語」は、今の時代ならばよく見かける設定かと思います。しかし100年前にも人間と妖怪の恋物語があったんです。

妖怪の世界で暮らしている富姫は、人間の世界から突然やってきた図書之助の聡明さや、その美しさに惹かれていきます。しかし妖怪と人間、棲む世界が違うから恋が実るのはとても難しい。
そんな中で「本当の恋とは何か」ということを教えてくれる、こんな恋がしたいと思わずにはいられない1作です。

あの美しい姫路城の天守閣が妖怪たちの棲家である、という設定からもうロマンチックですよね!
棲んでいる妖怪の名前も、萩、桔梗、女郎花(おみなえし)など、秋にまつわる名前がついており、幻想的な世界に一気に引き込まれていきますよ。

富姫と図書之助の恋は、劇的な展開を迎えます。100年前に書かれた、妖怪と人間の純粋な恋の物語を堪能してください!

 

今も昔も変わらない恋愛事情

100年ほど前に描かれた作品でも、熱い恋愛が書かれた作品はたくさんあります。

文学作品の恋愛も、現代の恋愛小説に負けず劣らずとにかく熱いので、ぜひ読んでみてくださいね。

今回ご紹介した文学作品

春琴抄』谷崎潤一郎

三四郎』夏目漱石

初恋』島崎藤村

夜叉ヶ池』泉鏡花

天守物語』泉鏡花

 

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