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泉鏡花『夜叉ヶ池』|竜神伝説の真相とは?鐘をつかないと水底に沈む村


更新日:2018/2/14

泉鏡花『夜叉ヶ池』|竜神伝説の真相とは?鐘をつかないと水底に沈む村

みなさんの住む街には、言い伝えや伝説がありますか? 日本には各地に、伝説や伝承が存在しています。お祭りも、昔から続く行事であることが多いかもしれません。

泉鏡花の『夜叉ヶ池』は「鐘をつき忘れると村が水底に沈む」という言い伝えを守り、鐘をつき続ける男のお話。

でも鐘をつき忘れると村が沈むって、どういうことなんでしょうか?

 

「夜叉が池」の竜神伝説とは?

ご紹介に入る前に、「夜叉ヶ池」がどんなものなのかご紹介します!

「夜叉ヶ池」は福井県に実際にある池で、竜神伝説が残っています。
かつて昔、安八太夫という長者が、日照りの続く村に雨を降らせてもらう代わりに「夜叉姫」という自分の娘を竜神に嫁がせたのだとか。
竜神は村に雨を降らせ、嫁いだ娘は竜となった。その娘の名前をとり「夜叉ヶ池」と呼ばれているそうです。

泉鏡花の『夜叉ヶ池』は、この伝説がベースになっていますが、だいぶ脚色がされ、舞台も現代へと飛びます。
『夜叉ヶ池』はどんなお話なのでしょうか?

 

『夜叉ヶ池』あらすじ

『夜叉ヶ池』表紙

夜叉ヶ池
泉鏡花(著)、岩波書店ほか

その昔竜神が封じこめられた夜叉ヶ池。萩原はただ一人、その言伝えを守り日に三度の鐘撞きを続けるが……。幻想と現実が巧みに溶けあわされた「夜叉ヶ池」。(表紙カバーより)

 

鐘を撞き忘れると水底に沈む村

『夜叉ヶ池』の舞台は約100年前の日本。100年前といえば、大正時代ですね。

その村では、夜叉ヶ池に封じ込められた竜神に「洪水を起こさせない約束」を思い出させるため「一日三度鐘をつく」という言い伝えがあり、鐘をつき忘れると「洪水が起こる」と言われていました。

竜神との約束なんて伝説でしょう!? と思いますよね。100年前、大正時代の日本でも、信じる人がどれぐらいいたでしょうか? まさにそれが、今回のお話『夜叉ヶ池』の世界です。

 

鐘をつき続ける萩原の元に、東京から学者の友人が訪ねてくるところから、物語は始まります。

萩原と、萩原の妻、友人の学者が「夜叉ヶ池」に伝わる哀しい竜神伝説を紐解きながら、その伝説の真相へと迫っていきます。
村の古くからの壮絶な風習が徐々に明らかになっていくにつれ「言い伝えを守る」とはどういうことなのか、と深く考えさせられる作品です。

冒頭から、萩原がつく鐘の音が聴こえてくるような作り込まれた世界観に、ぐいぐいと引き込まれていきますよ。
そしていつの間にか、伝説なのか現実なのか、その境目がわからなくなってくる……それが『夜叉ヶ池』の魅力です!

 

『夜叉ヶ池』の特徴は、小説ではなく「戯曲(台本)」の形で書かれていること。
ぜひ好きな俳優さんに当てはめて読んでみてください。すると頭に映像が浮かびやすくなり、ドラマを見ているような気分になるはずです!

日本の伝説や伝承が好きな方にもおすすめしたい一冊です!

 

幻想的な『夜叉ヶ池』の世界

『夜叉ヶ池』は、かつて坂東玉三郎さん主演で舞台と映画が制作され、そのあとも何度も舞台になり、オペラも上演された名作中の名作です。

冒頭からあっという間に、その幻想的な世界に引き込まれていくのは言うまでもありません。そして泉鏡花の書くセリフは、とにかく美しくて艶があり、情熱的でいてとても上品なんです!

美しも哀しい『夜叉ヶ池』に伝わる竜神伝説を、ぜひ堪能してください。

今回ご紹介した作品

夜叉ヶ池
泉鏡花(著)、岩波書店ほか

 

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