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村田沙耶香『コンビニ人間』ってどんな作品? 芥川賞受賞作に迫る


更新日:2016/8/11

『コンビニ人間』表紙

コンビニ人間
村田沙耶香(著)、文藝春秋

第155回(2016年上半期)芥川賞を受賞した、村田沙耶香さんの『コンビニ人間』をご存知ですか?タイトルからして「どんな作品?!」と興味を惹かれますよね。

コンビニのような人間なのか、はたまた人間がコンビニになっているのか?

ここでは、そんな気になる『コンビニ人間』についてご紹介したいと思います。

 

筆者の村田さんは現在もコンビニ勤務

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筆者の村田さんは作家業の傍ら、大学時代に始めたコンビニでのアルバイトを今も続けているのだとか。

村田さんは芥川賞受賞の記者会見でこのように話されていました。

「コンビニは自分の聖域なので、小説にすることはきっとないと思っていたのですが、なぜか急に書いてみようと思った、それがいいことかどうかはわからないのですが。でも、自分が働いてきたコンビニというものへの愛情を作品にできたことはよかったなと思っています」

「コンビニエンスストアという、自分のなかでは愛着のある場所が、小説家として見つめ直したときに、小説のなかではグロテスクなものになる感じ……それはおもしろかったです」

 

このように、本書は村田さんのコンビニへの愛情が形になった作品となっています。

 

主人公が『コンビニ人間』になった理由

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主人公・古倉恵子は、36歳。18歳の頃からアルバイト店員としてスマイルマート日色町駅前店で勤務しているベテランです。
恵子は18年間もの間、たくさんの社員・アルバイトを見送ってきました。

完璧に業務をこなし人間関係も良好。傍目からみると何の問題もないように見える恵子。そう、コンビニの中だけでは……。

 

恵子は幼少時代から「生きづらい」と思いながら生きてきたのでした。

象徴となっているのが幼少時代のエピソード。小鳥の死骸を見つけた恵子は、母親のところにその死骸を持っていきます。

「どうしたの、恵子? ああ、小鳥さん……! どこから飛んできたんだろう……かわいそうだね。お墓作ってあげようか」

私の頭を撫でて優しく言った母に、私は、「これ、食べよう」と言った。

「え?」

「お父さん、焼き鳥好きだから、今日、これを焼いて食べよう」(p8)

 

恵子は何の悪気もありませんでした。目の前の小鳥と、自分が普段食べている鶏肉との違いがわからなかったのです。

しかし、恵子を見て眉を潜める周囲の人間や「なんで治らないのか」と嘆く両親の姿に、恵子は自らの意思で動くことを放棄してしまうのです。

 

そして、18歳になった恵子はコンビニのバイトを見つけます。

皆同じ制服を着て、同じ行動をしている。コンビニの業務はマニュアル化されており、その通りに自分も動けば自分は正常な人間なのだと実感することができる。

コンビニで働いていれば、安心して生きていくことができる。恵子はそう思うようになります。

私は、初めて、世界の部品になることができたのだった。私は、今、自分が生まれたと思った。世界の正常な部品としての私が、この日、確かに誕生したのだった。(p20)

 

しかし、新しく入ってきたアルバイト・白羽との出会いにより、事態は大きく変化していきます……。

 

人々が無意識に抱く深層心理を突く

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また、本書の読みどころのひとつに、ドキっとさせられる描写があります。

人々が、口には出さないけれど、潜在的に思っているようなこと…人々が持つ深層心理をグサリと突いてくるのです。

いくつか紹介しましょう。

自分のセクシャリティを特に意識したこともない私は、性に無頓着なだけで、特に悩んだことはなかったが、皆、私が苦しんでいるということを前提に話を進めている。たとえ本当にそうだとしても、皆の言うようなわかりやすい形の苦悩とは限らないのに。誰もそこまで考えようとはしない。そのほうが自分たちにとってわかりやすいからそういうことにしたい、と言われている気がした。(p37)

「でも、変な人って思われると、変じゃないって自分のことを思っている人から、根掘り葉掘り聞かれるでしょう? その面倒を回避するには、言い訳があると便利だよ」

皆、変なものには土足で踏み入って、その原因を解明する権利があると思っている。(p54)

 

私の近所のコンビニでも、もう20年近く働き続けている人がいます。

少し前、そのコンビニ前で、その人のことを「ここでずっと働いているのは何でなんだろうね」「変わってるね」「何か事情があるんじゃない」と話題にしている人たちを見かけたことがあります。
話題にしている人たちもきっと悪気はなかったのでしょう。

きっとそういうことなのだと思います。私たちは知らず知らずのうちに、誰かに「普通」や自分の常識を強要しているのかもしれません。

でも、それって果たして「普通」なのでしょうか?そんなことを深く考えさせられる作品となっています。

 

問題提起を投げかける『コンビニ人間』

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『コンビニ人間』は、エンタメ要素も充分にありながら、私たちに問題提起を投げかける社会派の側面を持った、味わい深い作品となっています。

非常に面白い作品なので、ぜひ読んでみてくださいね。

 

今回ご紹介した書籍

コンビニ人間
村田沙耶香(著)、文藝春秋

 

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