村上春樹の原点!「風の歌を聴け」からはじまる『鼠三部作』とは
『鼠三部作』とは、「風の歌を聴け」、「1973年のピンボール」、「羊をめぐる冒険」からなる作品群です。「僕」とその友人「鼠(ねずみ)」の物語となっています。
「風の歌を聴け」で群像新人文学賞を受賞した村上春樹さんが描いた初期の中・長編作品となっていて、村上春樹さんの原点でもあります。
村上春樹作品特有の退廃的で幻想的な雰囲気はこの『鼠三部作』から既に漂っています。
1作目『風の歌を聴け』
『風の歌を聴け』
講談社
~あらすじ~
この話は1970年の8月8日に始まり、18日後、つまり同じ年の8月26日に終わる。(P13より抜粋)
29歳になった「僕」は8年前の夏の出来事を文章に書き起こします。
20歳の夏。海辺の街に帰省した「僕」は、友人の「鼠」とジェイズ・バーでビールを飲み、理想や現実や物語について語ります。
そんな折、「僕」はジェイズ・バーの洗面所で小指のない1人の女性を介抱します。
「鼠」、小指のない女の子、バーテンダーのジェイ。彼らと過ごす「僕」の夏は、どこか切なく、淡々と過ぎ去っていきます。
村上春樹のデビュー作
「鼠三部作」のはじまりであり、村上春樹という作家のはじまりでもある本作。翻訳小説のような独特な文体が特徴です。
本作は文学作品ということもあって、ストーリーに大きな起伏があるわけではありません。「僕」と「鼠」の会話。2人の出会い。街の話。小指のない女の子との話。「鼠」の憂鬱。そういったものが終始淡々と語られます。
難解ですが、読みやすいのが特徴です。雰囲気がよく、次々とページをめくりたくなるようなそんな作品となっています。
2作目『1973年のピンボール』
『1973年のピンボール』
講談社
~あらすじ~
これは「僕」の話であるとともに鼠と呼ばれる男の話でもある。その秋、僕たちは700キロも離れた街に住んでいた。
1973年9月、この小説はそこからはじまる。(p25より抜粋)
1973年。翻訳の仕事でなんとか生計を立てていた「僕」。そんな「僕」の生活の中に双子の少女が紛れ込み、「僕」は彼女たちと生活を送るようになります。そんな「僕」はある時、かつてジェイズ・バーで「鼠」がやっていて「僕」自身ものめりこんだピンボールのことを思い出します。そのピンボールの名前は「スペース・シップ」。そこで「僕」は「スペース・シップ」を探しはじめます。
一方で「鼠」。彼は1970年に大学を辞めてから現実感のない生活を送っていました。そして1973年の9月。彼は、1人の女性からタイプライターを買い、またその女性と親密な関係になっていき、やがて1つの決断をくだします。
学生でなくなった「僕」と「鼠」
本作は、「風の歌を聴け」の3年後の「僕」と「鼠」の物語です。「僕」が既に働いていている一方、「鼠」は起伏のない日々を淡々と過ごしています。
「僕」はピンボールを求め、「鼠」は最後にとある決断をくだします。「僕」がピンボールを探す理由や「鼠」の決断が意味するところについて、はっきりとは描かれません。本作は初めから最後まで抽象的で、黙説的に物語が語られていきます。
退廃的な雰囲気が漂っていて、読んでいると胸がしめつけられるようなそんな作品となっています。
3作目『羊をめぐる冒険』
『羊をめぐる冒険』
講談社
~あらすじ~
1978年。もうすぐ30歳になる「僕」は妻から別れを切り出されます。そうして独り身になった「僕」は、娼婦でもあり、耳のモデルでもあり、事務員でもあるとある女の子と出会います。
そんな折、ある大物右翼の「先生」の秘書が、「僕」と話したいと申し出てきます。「僕」が「先生」の屋敷を訪ねると1つの写真の話をされます。その写真とは、以前「僕」が仕事で作った広告のPR誌に掲載したもののことでした。これは、「鼠」から送られてきた写真で、「僕」がなにげなく使った1枚。その写真に写る羊には星形の斑紋があり、それがどうやら「先生」にとって大きな意味があるとのこと。
そしてこの羊を探し出すよう秘書から言われた「僕」は、娼婦で耳のモデルで事務員の彼女と共に羊を探す旅へでます。
「僕」と「鼠」がいきつく場所
本作で「鼠三部作」が完結します。「鼠」の手紙をきっかけに「僕」が羊をめぐる冒険に出る物語です。
本作は、前2作と違い、ファンタジー色の強い作品となっています。「羊」と「先生」の関係や「羊」と「鼠」の関係など、人智を越えた話が展開されます。そして終盤に明かされる一つの真実。それによって「僕」と「鼠」の青春が終わります。それと同時に、苦く切ない痛みを伴って、物語も幕を閉じます。
まとめ
村上春樹作品は、難解でありながら読みやすいのが特徴です。「鼠三部作」もその例にもれません。
「鼠三部作」は「ノルウェイの森」や「1Q84」など数々の名作を生みだした村上春樹さんの原点です。これから村上春樹作品を読もうと思っている方は、是非参考にしてみてください。
「風の歌を聴け」と「1973年のピンボール」は、村上春樹さんの作品の中でもとりわけ読みやすいため、村上春樹作品をこれから読もうとしている方に是非お勧めしたい作品です。
ちなみに「鼠三部作」の「僕」の話には続きがあります。それは別の著作「ダンス・ダンス・ダンス」で描かれています。「鼠三部作」が気にいった方は、そちらも手にとってみるといいかもしれません。