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宮崎駿監督が愛してやまない児童文学の世界|著書『本へのとびら』とは


更新日:2019/3/15

日本を代表するアニメーション映画監督である宮崎駿さんが、3年前に長編アニメ作品制作からの引退を発表した際に、こんな言葉を残しました。
(ちなみに、このときの引退発表はのちに撤回されています。)

「僕は児童文学の多くの作品に影響を受けてこの世界に入った人間ですので、いまは児童書にもいろいろありますけれども、基本的に子どもたちに、この世は生きるに値するんだということを伝えるのが自分たちの仕事の根幹になければいけないというふうに思ってきました。それは今も変わっていません」

 

この言葉が象徴するように、宮崎さんにとって児童文学は原点でした
。そして「この世は生きるに値するんだということを伝える」ために、何十年と子ども向けのアニメーション映画を作り続けてきたのです。

実際スタジオジブリの作品は、
・「魔女の宅急便」(原作:角野栄子『魔女の宅急便』)
・「ハウルの動く城」(原作:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『魔法使いハウルと火の悪魔』)
・「崖の上のポニョ」(原作:アンデルセン『人魚姫』)
など、児童文学をモチーフにしたものが多く、宮崎さんの児童文学愛が伺えます。

 

ここでは、そんな宮崎さんが児童文学について書いた著書『本へのとびら』を紹介したいと思います。

 

児童文学の持つ意味

『本へのとびら』表紙

本へのとびら
宮崎駿(著)、岩波書店

児童文学というと、子ども向けの本だと思いがちですよね。
楽しくて、明るくて、ワクワクさせてくれる本。児童文学を読んでいた当時、目の前に広がる本の世界は希望に溢れていたのではないかと思います。

ところがどうでしょう。いつしか児童文学を読まなくなり、そんな気持ちも忘れてしまっている私たち大人。

宮崎さんは、児童文学の持つ意味について以下のように語っています。

何かうまくないことが起こっても、それを超えてもう一度やり直しがきくんだよ、と。たとえいま貧窮に苦しんでいても、君の努力で目の前がひらける、君を助けてくれる人間があらわれるよ、と、子どもたちにそういうことを伝えようと書かれたものが多かったと思うんです。(『本へのとびら』p162)

要するに児童文学というのは「どうにもならない、これが人間という存在だ」という、人間の存在に対する厳格で批判的な文学とはちがって、「生まれてきてよかったんだ」というものなんです。生きててよかったんだ、生きていいんだ、というふうなことを、子どもたちにエールとして送ろうというのが、児童文学が生まれた基本的なきっかけだと思います。(『本へのとびら』p163)

 

宮崎さん自身、自分は脆弱な精神の持ち主だったゆえに、児童文学が性に合ったのだとも言っています。

本書にもあるように、児童文学は子どもたちの生きる力を引き出す宝であり、さまざまな葛藤を抱えて生きている子どもたちに向けたエールと言えるでしょう。

 

「自分の1冊」にめぐり逢うことの大切さ

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あなたは「自分の1冊」を持っているでしょうか。とっておきの1冊、自分の価値観の礎となっている1冊を。

もちろん、その1冊が児童文学の人もいれば、違う人もいるでしょう。無いと答えた人は、忘れているだけかもしれないし、もしかすると未だめぐり逢っていないのかもしれません。

 

実は、宮崎さんも、岩波少年文庫をまとめて読んだのは大人になってからだと本書で語っています。
(宮崎さんは、楽しむために読んだというよりも、何か吸収できるものがないか、ネタを仕入れるために読んでいたそうですが。)

そして、自分の経験から、ぜひ「自分の1冊」にめぐり逢ってほしいと強く主張しています。

本には効き目なんかないんです。振り返ってみたら効き目があったということにすぎない。あのときあの本が、自分にとってはああいう意味があったとか、こういう意味があったとか、何十年も経ってから気がつくんですよ。

だから、効き目があるから渡す、という発想はやめたほうがいいと思っています。読ませようと思っても、子どもは読みません。(『本へのとびら』p145)

本を読むから考えが深くなる、なんてことはあまり考えなくてもいいんじゃないでしょうか。本を読むと立派になるかというとそんなことはないですからね。読書というのは、どういう効果があるかということではないですから。

それよりも、子どものときに、自分にとってやっぱりこれだという、とても大事な一冊にめぐり逢うことのほうが大切だと思いますね。(『本へのとびら』p146)

 

大人になった今、児童文学を読み返してみると、想像以上に学びがあるかもしれません。これを機に、読書経験を省みるのも面白いかもしれませんね。

 

 ◆宮崎駿さんが選んだ50

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また、本書では、宮崎さんが選んだ「岩波少年文庫の50冊」が、宮崎さんによる本の紹介と共に掲載されています。
1冊1ページと文章はどれも短文なのに、つい引き込まれる書き口。50冊すべてをつい大人買いしたくなってしまうほどです。

では、 宮崎さんが選んだ50冊のうち、誰もが知っている3冊を宮崎さんの言葉と一緒に紹介しましょう。

 

★『イワンのばか』

『イワンのばか』表紙

イワンのばか
レフ・トルストイ(著)

人はどのように生きるべきなのでしょう。子供のころ、この本を読んでぼくはとても心をうたれました。ばかのイワンのように生きられたらどんなにいいか。でも、それはとてもむずかしい。自分にはできそうにありません。そう思うのに、ぼくは今でもばかのイワンのように生きられたらと、時々思います。(『イワンのばか』p18)

 

★『注文の多い料理店』

『注文の多い料理店』表紙

注文の多い料理店
宮沢賢治(著)

この人の作品はすべてたからものです。あわてて読んではいけません。

ゆっくり、なんども読んで、声を出して読んで、それから心にひびいて来るものや、とどいてくるものに耳をすませて、場面を空想して、何日もたってからまた読んで、何年もたってからも読んで、判らないのにどうして涙が出てくるのだろうと思い、ある時はなんだか見えてきたような気がして、とたん、スウッときえていくのです。そういう美しいものがあることを教えてくれるのです。(『注文の多い料理店』p30)

 

★『トム・ソーヤーの冒険』

『トム・ソーヤーの冒険』表紙

トム・ソーヤーの冒険
マーク・トウェイン(著)

有名すぎて、この本についていまさらぼくが書くことはありません。あなたがまだ読んでいないのなら、ぜひ読んでみて下さい。

なんという自由な少年の時代!なのに、この本はとてもきゅうくつな時代に書かれたのです。なにしろ、子供に悪い影響を与える本とされたんですから。今の時代にそんなことを言う人はいません。ずっと自由な時代なのです。それなのに、子供達はずっときゅうくつに生きています。おかしな話ですね。(『トム・ソーヤーの冒険』p29)

 

「この世は生きるに値する」を改めて教えてくれる児童文学

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「生きててよかったんだ、生きていいんだ、というふうなことを、子どもたちにエールとして送ろうというのが、児童文学」。

 

本書を読んでからずっと、この言葉が頭から離れませんでした。

「この世は生きるに値する」と自信を持って子どもたちに言える人はどれぐらいいるでしょう。

懐かしの児童文学。毎日に追われ考える機会が減りつつある今だからこそ、久しぶりに読むと新たな発見があるかもしれませんよ。

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ご紹介した書籍

本へのとびら
宮崎駿(著)、岩波書店

 

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