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第18回 『〆切本』文豪たちの言い訳がおもしろすぎる!【連載コラム】


 

夏休みの宿題はいつも8/31にやっていたアオノです、こんにちは。

わたしたちの人生は、締切であふれています。

学校や仕事でのレポートの提出だって締切ですよね。それから、就活のエントリーシートや、報告書などなど、世の中にはなんて締切の多いことか!

 

万が一締切に遅れそうになったとき、どんな言い訳をするか、とっさに考えてしまったことありませんか?でも結局あんまりいい言い訳も思いつかず、徹夜でレポートを書いたり、素直に謝って「伸ばしてください!」と言ってしまったり……。

 

「あぁ締切ってつらいなぁ……」と思っているあなたへ、そんな恐怖の締切とうまく付き合っていくための本があるんです!

 

ジャン!

『〆切本』
左右社

 

その名も『〆切本』。

表紙の「どうしても書けぬ。あやまりに文芸春秋社へ行く。」というのは、作家・高見順の日記に書かれた一節です。

 

「どうしても書けぬ。」

 

わかる。

 

「〆切に遅れそうです。」

 

……わかるぞ!

 

私もこのコラムで毎週記事を書いているので、わかりすぎて辛いぐらいわかる!って何度も頷いてしまったこの表紙。

中を開いてみると、

 

しめきり。

そのことばを人が最初に意識するのは、おそらく小学生の夏休みの宿題です。

(「はじめに」より)

 

と書かれています。たしかに、宿題の「締切」は誰もが一度は体験したことがあるものですよね。

 

『〆切本』は、文豪や作家たち90人の「締切」にまつわる日記や手紙、エッセイなどを集めた一冊。まえがきには『〆切本』は“しめきり症例集”であると書かれています。

つまり、締切を目前にした作家たちがどんな精神状態になってしまうんだろう、とか、どんな言い訳を編集者に言っていたんだろう、とか、締切をめぐる作家たちのさまざまなドラマが詰まっているんです。

 

今回はこの『〆切本』の中から、わたしが特におもしろいと思った症例をご紹介します。

『〆切本』症例1:坂口安吾
忙しい時に、ねむい。

しかし、仕事の締切に間があって、まだ睡眠をとってもかまわぬという時に、かえって眠れない。ところが、忙しい時に、ねむい。

 

「人生三つの愉しみ」坂口安吾(P66)

 

眠るのが大好きで、徹夜しなければ締切に間に合わない、という時にかぎって眠い、という坂口安吾のエッセイの一節。

勉強しなくちゃいけないのに眠い、掃除しなくちゃいけないときにかぎって眠い。あるあるですね。そして、そういう時の方が一瞬で眠れちゃうんです。どうしてなんでしょうね。

でも、文豪も一緒なんだな、と思ったらちょっと親近感がわいてきます。

 

坂口安吾:代表作『桜の森の満開の下』など

 

『〆切本』症例2:田山花袋
今夜、やる。今夜こそやる。

「また、駄目ですか?」

こう妻が言う。

「駄目、駄目。」

「困りますね。」

「今夜、やる。今夜こそやる。……」

 

「机」田山花袋(P12)

 

田山花袋と奥さんとの会話です。申し訳ないことにくすっと笑ってしまいました。完全に、嫌なことを後回しにしたいだけの言い訳じゃないですか!

でも、先のばしにしたいことがあると、今日こそやるよ。今夜こそやるよ。って思わず言ってしまいますよね。それでまた、明日こそ、ってなって、結局締切が目前になる。わかります、ありがちです。

わたしも、締切が迫っていると「今夜こそやる!」と言い聞かせています。そうしないと、本当に気が付くと締切目前ですからね!

 

田山花袋:代表作『蒲団』など

 

『〆切本』症例3:井上ひさし
殺してください。

さて、締切日がくると、患者は自信喪失の極に達し、たいてい編集者に

「次号に廻してください」

「殺してください」

などと申し出る。編集者のほとんどがこの場合「どうぞ」とか「では殺ってあげますか」とかいわぬようだ。

 

「罐詰体質について」井上ひさし(P143)

 

締切が近づくと「缶詰病」という病にかかるのだとか。原稿を書き始めた時は「次のは傑作だ!」とふれ回るけれど、締切が近づくほど、症状は重くなる。締切日には自信喪失の末期症状にかかり、ホテルなどに収容されて缶詰状態で書く。すると不思議と自分で立ち直るのだそう。

それにしても「殺してください」は究極ですね。気持ちはわかりますが、編集者も困ってしまうのでは……と思いきや、編集者は作家の特性をよく理解しているようで、結局作家をホテルなどに缶詰にし、原稿をゲットするのだとか。

作家と編集者との関係性が書かれており、編集者ってすごいなぁ……と感心しました。

それにしても、作家がホテルなどに缶詰にされて書くって本当だったんですね。

 

井上ひさし:代表作『ひょっこりひょうたん島』(共著)、『 頭痛 肩こり 樋口一葉』など

 

『〆切本』症例4:夏目漱石
代作が頼みたい

だれか代作が頼みたいくらいだ。

 

「十二月十一日(月)高浜虚子 宛 [はがき]」夏目漱石 (P21)

 

夏目漱石が高浜虚子にあてた手紙の一文。

明日からがんばって書くけど、時間がないから誰か代わりに書いてほしいくらいですよ、という内容の手紙なんです!

宿題やレポートなども、誰か代わりにやってくれたらなぁと、思ったことが誰でも一度はあるはず。大作家である漱石も代わりに書いてほしいと思ったことがあったなんて、なんだか意外ですが、親近感がわきますよね。

私たちが漱石の小説を読めるのは、それでも漱石が小説を書いてくれたおかげ。がんばって書いてくれてありがとう!と言いたいです!

 

夏目漱石:代表作『吾輩は猫である』など

 

『〆切本』の効能

ほとんどの締切は待ってはくれません。 だからこそ、締切に悩むすべての現代人に贈りたい一冊。くすっと笑えて、不思議と勇気がもらえることまちがいなし!

『〆切本』を読むと、「あぁ、あの有名な文豪や作家たちも、わたしたちと同じなんだなぁ」と親近感がわいてきますよ。

文豪たちが辛い締切を乗り越えて書いた著書もあわせて、ぜひとも読んでみてください。作家たちの言い訳を思い出したら、思わず笑ってしまうかもしれませんね!

それも、本の楽しみ方のひとつです。

 

そして、締切に苦しめられながらも、締切に背中を押された作家たちの話を読むと、なんだか締切も悪くないなぁと思えてくるはずです。

でもみなさん、締切は守りましょうね……!

 

本日ご紹介した『〆切本』

 

『 〆切本
左右社(著)、左右社

 

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