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2016年本屋大賞・翻訳小説部門1位!本を愛する本「書店主フィクリーのものがたり」


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「全国書店員が選んだいちばん! 売りたい本」がキャッチコピーとして掲げられている本屋大賞。受賞作は毎年話題となる注目度の高い賞ですが、本屋大賞には複数の部門があることをご存知でしょうか。

今回取り上げる作品は2016年度「本屋大賞 翻訳小説部門」で見事1位となった、『書店主フィクリーのものがたり』(ガブリエル・ゼヴィン著、早川書房)。

本好きにはたまらない魅力がたくさん詰まっており、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

 

「書店主フィクリーのものがたり」あらすじ

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舞台になるのは、アリス島にあるたった一軒の本屋、アイランド・ブックス。ナイトリー・プレスという出版社の営業であるアメリア・ローマンが、アリス島に渡るところから、物語は始まります。

アイランド・ブックスを訪ねると、看板には「アイランド・ブックス 島の本屋 創業1999年 アリス島唯一の優れた文学書籍販売 人間は孤島にあらず。書物は各々一つの世界なり」の文字が。

それを書いたアイランド・ブックスの店主はA・J・フィクリー。39歳のインド系アメリカ人。妻の出身地にて、妻とともに本屋を開業し生きてきましたが、ある日妻が事故で亡くなってしまいます。それからは酒浸りになり、フィクリーは偏屈ものとして敬遠されるようになっていました。

ある日、フィクリーが所蔵していたエドガー・アラン・ポーの稀覯本『タマレーン』が盗まれる事件が。売れば大金になるはずだった財産でした。

数日後、店内には2歳の女の子が置き去りにされます。母親からの「どうぞお願いを」という手紙と一緒に。女の子の名前はマヤ。ほどなくして、マヤの母親の溺死体が見つかります。

フィクリーはマヤを養女として育てる決心をします。そうしてマヤは本好きな女の子へと成長していきます。しかし、フィクリーの身体は、病魔に蝕まれていたのでした……。

 

本好きにはたまらない!本にまつわる哲学がたくさん

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本書の一番の魅力は、本に対する愛がふんだんに詰まっていること。作中に散りばめられた、本にまつわる哲学は、本好きにはたまりません。

出てくる登場人物たちも皆、本に対する愛情やこだわりが強い人たちばかりです。

たとえば、フィクリーは言います。

「本屋のない町なんて町じゃない」「本というやつは、しかるべきときがくるまで、読み手が見つからないことがある」「散文の領域においてもっとも気品のある芸術作品は短篇小説だよ」。

ナイトリー・プレスのアメリアは言います。

「私はアイランド・ブックスを心から愛している。私は神を信じない。信奉する宗教もない。だが私にとってこの書店は、この世で私が知っている教会に近いものだ。ここは聖地である。このような書店があると、ブック・ビジネスの前途も安泰であろうと自信をもっていえる気がする」

警察署長ランビアーズは話します。

「本のことを話すのが好きな人間と本について話すのが好きだ。紙が好きだ。紙の感触が好きだ。ズボンの尻のポケットに入っている本の感触が好きだ。新しい本の匂いも好きなんだ」

上記のような登場人物のセリフのほか、本書のテーマである「人間の世界は、結局は短篇集。すべて収録された作品が完璧ではない」という言葉など、「分かる!」とつい共感してしまう哲学や心動かされる言葉がたくさん詰まっています。

また、文中にたびたび出てくる言葉に「あなたのいちばん好きな本は何ですか?」というのがあります。この質問の回答で、相手のすべてがわかる。この方程式には納得する人も多いことでしょう。

本好きならきっと楽しみながら読んでいただけるはずです。

 

本好きにはたまらない!本にまつわる仕掛けがたくさん

「おとなしい凶器」(ロアルド・ダール)
「リッツくらい大きなダイアモンド」(F・スコット・フィッツジェラルド)
「ロアリング・キャンプのラック」(ブレット・ハート)
「世界の肌ざわり」(リチャード・ボーシュ)
「善人はなかなかいない」(フラナリー・オコナー)
「ジム・スマイリーの跳び蛙」(マーク・トウェイン)
「夏服を着た女たち」(アーウィン・ショー)
「父親との会話」(グレイス・ベイリー)
「バナナフィッシュ日和」(J・D・サリンジャー)
「告げ口心臓」(E・A・ポー)
「アイロン頭」(エイミー・ベンダー)
「愛について語るときに我々の語ること」(レイモンド・カーヴァー)
「古本屋」(ロアルド・ダール)

これらは各章のタイトルです。すべてが古今の傑作短篇小説のタイトルになっているところも、本好きにはたまりません。

本にまつわる数々の仕掛けや伏線が張られているのは本書の魅力のひとつです。

もちろん引用元の小説を読んでいなくても楽しめる作品ですが、知っていればさらに本書を楽しめること間違い無し。わかる人にはわかる、文中に隠れているオマージュを見つけるのも楽しいですよ。

これらの作品以外にも、多くの本が登場します。興味を持った方はぜひ、本書と合わせて読んでみてくださいね。

 

もっともっと読書が好きになる一冊

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本は人と人をつなげてくれる。本は人と新たな本をつなげてくれる。一冊の本から次々と派生していくのは、読書体験の醍醐味であることを改めて教えてくれる一冊となっています。

■ご紹介書籍
書店主フィクリーのものがたり
ガブリエル・ゼヴィン (著)、 小尾芙佐 (翻訳)、出版社: 早川書房

 

ライター

I.Megumi
フリーランスのライター。一児のママ。出産前まではリクルートで結婚情報誌を担当。現在はWeb媒体にて書籍、音楽、育児など幅広く執筆中。影響を受けた作家は白石一文。趣味はスイーツを愉しむこととドラマ鑑賞。