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文学を楽しむためのクラシック音楽入門


gakuhu

読書のお供といえば、一杯のコーヒーと音楽でしょうか。音楽といっても、「読書のための音楽」と題したオムニバスCDやいわゆる「作業用BGM」に使われるのは、多くがクラシック音楽です。

しかし、文学の歴史において、クラシック音楽は単にBGMにとどまるものではなく、互いに刺激し合う関係にありました。つまり、文学が作曲家にインスピレーションを与え、他方、クラシック音楽もまた、小説家に刺激を与えてきたのです。
クラシック音楽と文学の接点を知ることは、文学作品とクラシック音楽に対するより深い理解につながること間違いなしです。

 

音楽と文学

音楽と文学は本来不可分の存在でした。文学史の本を紐解けばわかるように、古代の文学史は、およそ韻文作品からなっています。
たとえば古代ギリシャの叙事詩『イリアス』『オデュッセイア』は吟遊詩人によって吟唱されました。東洋に目をむければ、中国の『詩経』、日本の『万葉集』が代表です。日常の言葉に節をつけることが、おそらく、文学のはじまりでもあり、音楽のはじまりでもあったのではないでしょうか。

 

 バロック音楽と文学

ヨハン・セバスチャン・バッハ(1685-1750)の時代、すなわちバロック時代の音楽は、宗教曲が中心でした。したがって、聖書と音楽は密接に関わっているといえます。バッハの傑作「マタイ受難曲」「ヨハネ受難曲」はそれぞれ、新約聖書の「マタイの福音書」、「ヨハネの福音書」を題材としていますし、バッハが生まれる100年前に生まれたハインリヒ・シュッツもいくつかの受難曲を残しています。

バッハの音楽は多くの文学者にインスピレーションを与え、たとえば、堀辰雄はバッハのフーガに着想を得て『美しい村』を生んだ、と書いています。

 

ロマン派音楽と文学

モーツァルト(1756-1791)

モーツァルトと文学のつながりはオペラにありました。彼はイタリアの詩人ダ・ポンテや、シカネーダーの書いた台本をもとに《ドン・ジョバンニ》や《魔笛》といった名オペラを生み出しました。また、モーツァルトの天才ぶりは文学者を感化し、メーリケは『旅の日のモーツァルト』を、小林秀雄は『モオツァルト』を書き上げました。

ベートーヴェン (1770-1827)

ベートーヴェンの交響曲第9番、いわゆる「第九」の第四楽章において、フリードリヒ・シラーの「歓喜に寄せて」(独語:An die Freude)が歌われることは周知の通りです。しかし、当時交響曲に合唱を盛り込むことは一般的ではなく、ベートーヴェンも当初は、器楽のみの第四楽章を構想していました。

ベートーヴェンの音楽もまた、後代の文学者を励ましました。トルストイ作の『クロイツェルソナタ』はベートーヴェンのヴァイオリンソナタ9番に由来します。さらに、ベートーヴェンの生き様はやがて、ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』、『ベートーヴェンの生涯』、手塚治虫の漫画『ルードウィヒ・B』に結実します。

メンデルスゾーン (1809-1847)

ベートーヴェン以後、文学が音楽に影響を与えた例としては、メンデルスゾーンが挙げられます。彼の交響曲第2番では、マルティン・ルターのドイツ語訳聖書がテキストに用いられたほか、シェイクスピアにインスピレーションを得た《夏の世の夢》を残しました。

 

ゲーテとクラシック音楽

ゲーテは後世に多大な影響を及ぼしましたが、19世紀ロマン派音楽も例外ではありませんでした。

たとえば、シューベルトが残した歌曲のうち、『魔王』『のばら』『糸を紡ぐグレートヒェン』など、70曲ほどがゲーテの詩によっています。ゲーテの最高傑作『ファウスト』もまた、数多くの傑作の種となりました。列挙すると、ベルリオーズ作曲《ファウストの劫罰》(1846)、シューマン作曲《ファウストからの情景》(1853)、リスト作曲《ファウスト交響曲》(1854)、《メフィストワルツ》、グノー作曲のオペラ《ファウスト》(1859)などがあります。

面白いことに、リストが『ファウスト』に出会ったのは友人ベルリオーズの勧めによってでした。リストの《ファウスト交響曲》は、ファウスト、グレートヒェン、メフィストフェレスの音楽的性格描写といったユニークな交響曲として有名です。時代が下って20世紀になると、マーラーが交響曲第8番(1911)の第二楽章において『ファウスト第二部』のテキストを採用しています。

 

劇音楽と文学

オペラ、ブロードウェイ、ヴォードヴィルといった劇には台本と音楽が欠かせません。劇音楽の真髄は台本と音楽の融合にあります。すなわち、台本は言葉の韻によって音楽に貢献し、音楽はその表現力によって台本に説得力を与える、という相互関係が鍵となります。

音楽と文学の融合をこれまでにない徹底度で試みたのがリヒャルト・ワーグナー(1813-1883)でした。『ベートーヴェンまいり』や『未来の芸術作品』などの著書を残し、筆まめだったワーグナーは、オペラの台本を自ら手がけ、音楽、セリフ、舞台が融合した「総合芸術」の実現を目指しました。ワーグナーの革命は音楽の分野にとどまらず、多くの文学に及びました。ニーチェ、ボードレール、トーマス・マンらは、ワーグナーに熱狂する「ワグネリアン」として知られています。ニーチェは晩年、『ニーチェ対ワーグナー』を書いています。

ちなみに、もう一人のリヒャルト、リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)は、ニーチェの『ツァラトゥストラはこう語った』に感化され、同名の交響詩を残しました。彼はまた、セルバンテスの記念碑的小説『ドン・キホーテ』を題材にした作品を残しています。

今でいうミュージカルの分野でもクラシック音楽と文学は結びついています。ヘルベルト・ブレヒトの戯曲『三文オペラ』(原題:Die Dreigroschenoper ,1928)は、20世紀前半を代表する音楽劇です。音楽はクルト・ヴァイル。ジョン・ゲイの手になる18世紀前半のイギリスの作品『乞食オペラ』がもとになっています。

劇は、反抗的で社会風刺に満ちており、茶化したような音楽とセリフによって、殺人や不貞といったシリアスな内容が語られていきます。内容のシリアスさと、それに似つかぬ軽率な音楽とセリフの生み出す異様な感じは「異化効果」とよばれます。クルト・ヴァイルの音楽は大変親しみやすく、「メッキー・メッサーのモリタート」は「マック・ザ・ナイフ」の名前で人口に膾炙しています。『悪の教典』(貴志祐介著、文藝春秋)の劇中歌で使われたことで、日本でも有名になりました。

アメリカのブロードウェイでは、指揮者・作曲家のレナード・バーンスタイン(1918-1990)が音楽を手がけた『ウエスト・サイド・ストーリー』(1957)が有名です。この作品は、シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』を当時のアメリカで再現する、という発想が下地となっています。バーンスタインは他にも、ウィスタン・ヒュー・オーデンの詩『不安の時代』(原題:The Age of Anxiety)に着想を得て交響曲を書いたり、ノーム・チョムスキーの言語学理論を音楽理論に応用した、『答えのない質問』(原題:The Unanswered Question)と題する一連のハーヴァード講義を行ったりするなど、文学に積極的な作曲家でした。

 

まとめ

文学とクラシック音楽の関係について紹介してきました。現代でも、村上春樹さんと小沢征爾さんの対談集『小沢征爾さんと音楽について話をする』がベストセラーになるなど、クラシック音楽と文学は接点を持ち続けています。

クラシック音楽と文学のふたつのパースペクティブを持つことは、非常に有益です。ブックオフオンラインには、本だけではなく、CDも置いています。自分の興味を広げ、文学への理解を深めるきっかけとして、クラシック音楽を聴いてみてはいかがでしょうか。

【参考サイト・文献】
・コラム シューベルトとゲーテ http://kyodaioke.com/blog/2015/06/11/
ゲーテとシューベルトの関係がまとめられています。

・Allen Shawn, (2014). Leonard Bernstein Yale university press  p.142-143